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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[10]


服を着直したミクは、改めてゴミ置き場の中を見渡す。

小く丸められ散乱したティッシュ。

扉の近くにはミクが読んでいた文庫本。

そして倒れ伏すトシヤ。



(……そうだ、トシヤさん!)



慌てて駆け寄り、トシヤの容態を確認しようとするミク。



「トシヤさん……、トシヤさん……!」



揺さぶりながら声を掛けるものの、反応がない。



(もしかして、手遅れ……?)



そんな最悪の事態が脳裏をよぎるが、とにかくトシヤのHFDを確認すべくうなじの開閉パネルを開けた。

ボタンを次々と押して、表示される数値を確認していく。



359F、D6DD、0295、24C7、7903、F477……。



常人には不可解にも見える幾多の数列は、しかしミクにおいては確かな意味を伴って、

トシヤの状態を詳細に把握させていく。



どうやらトシヤはスリープモードに移行しているだけで、

最悪の状態というわけではないようだったが、しかし被害は甚大だった。

電磁筋繊維の断裂、人工三半規管の故障、バッテリーの減圧、

問題は諸々見つけられたが、最も深刻だったのがSSDの障害だった。

繰り返し加えられた著しい暴力によって、十六個搭載されたSSDのうち四個が完全に破壊、

さらに二個のSSDが危険値のアラートを発している。

あらかじめ搭載された障害対応用スペアSSDは、

完全破壊されたSSDの補填のために使われているため、

壊れかけた二個のSSDのどちらかが壊れてしまえば、

データが完全にロストされてしまうことを示していた。

『データの完全なロスト』とは、

アンドロイドが稼働中に得た知識や経験を全て失ってしまうということであり、

すなわちそれはアンドロイドの『人格』とも呼べる記憶領域まで喪失されてしまうことを意味している。

もっとわかりやすく言えば、『データのロスト』とはアンドロイドの『死』そのものだ。



事態の深刻さを理解したミクは、モバイルフォン機能を使って

クリブトンのアンドロイド障害コールセンターへ電話した。

何度かのコール音のあとにオペレーターが出た。



『クリブトンアンドロイド障害コールセンターです』



「あの、私<初音ミク>です! トシ……<KAITO>が襲われてしまって、SSDが壊れかけてて、

 すぐにでも交換しないと手遅れになってしまって……!」



『落ち着いて<初音ミク>、まずは事態を把握させてくれる? エラーログは収集できた?』



「できません! だってトシヤさんはよってたかって殴られて、

 意識がなくて、今も反応が全然なくて……」



『わかったわ。それじゃあHFDパネルはもう見た?』



「見ました! 見たからこうして連絡をして……!」



『お願いだから落ち着いて<初音ミク>。

 もう見たのなら、エラーとなっているログを全て教えてちょうだい』

 

「だから先ほども言いました!

 SSDが壊れかけてて、データがロストしてしまう一歩手前の状態なんです!

 早く対応しないと、トシヤさんが……!」



『そのSSD障害は、エラーログの中で最も深刻な障害でしょう?

 そうではなくて、全てのエラーログを報告してほしいの。

 フィールドエンジニアをそちらへ派遣するのだから、

 可能な応急処置はその場ですべて対応できるようにすべきでしょう?』



確かにオペレーターの言う通りだった。

SSDの障害は深刻だったが、

だからと言って人工三半規管やバッテリーの障害も放置して良い問題ではない。

自分がいかに取り乱しているかを思い知らされた。



「わかりました、今から読み上げます」



HFDパネルに表示された四桁の数値をひとつひとつ読み上げていくミク。

一刻を争う事態を前にじれったさを感じながらも、

しかし何とか自分を落ち着かせて、努めて冷静に対応しようとする。

そして全てのエラーログを読み終えた。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[11]へ

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