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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[12]


一歩一歩をしっかりと踏みしめる。

背中のトシヤを揺らさぬように、しかしできるだけ早く足を動かす。

一分ほど歩いたところで、トシヤの重さが深刻に感じられた。

更に一分歩くと、アパートまでたどり着けるか不安になった。

そこから五分も歩けば、自分の判断は本当に正しいのか自信がなくなった。



もしかすれば、あのまま待っていた方が早くエンジニアに来て貰えたかもしれない。

オペレーターは一時間でエンジニアが来ると言っていたが、

こちらがあれだけ急いでくれと言ったのだ、

もしかすれば三〇分とかからずに来てくれるかもしれない。

それに今こうして歩いたところで、一時間以内にアパートに帰れる保証などどこにもないのだ。



しかし今更この歩みを止めることなどできるはずもなかった。

ミクは思考を止めて、ただひたすら歩き続ける。

左腕を失っているせいか、トシヤのバランスは崩れやすくて、すぐに背中からずり落ちそうになる。

その度に背負い直さなければならなかったため、それがミクの体力を大いに奪った。



街灯が道路を点々と照らしている。

ミクはその光をできる限り避けて歩いた。

人目に付くのがたまらなく嫌だった。

徹底的に破壊されたトシヤと、レイプされた自分。

自分ではわからないが、きっとこの体にはゴミの臭いまで染みついていることだろう。

あまりにみすぼらしいこんな姿、誰にも見られたくなかった。



前方からサラリーマンが歩いてきた。

すれ違いざま、ぎょっとした目で見られる。

その視線がどうしようもないほど気持ち悪かった。

あなたに私たちの何がわかるっていうのよ。

そんな卑屈な思考が胸裏をかすめる。



結局人目に付くのを嫌って、ミクは裏路地に入った。

少し遠回りになってしまうが、それよりも他人の視線に晒されることの方が嫌だった。



ミクは歩く。

黙々と歩く。

足の痛みも下腹部の痛みも無視して、とにかく前へ歩いた。



そのときふいに、背中で微かに身じろぐ気配を感じた。



「……ミ、みくチャン……カィ?」



その声は抑揚に欠けて、いかにも機械的な音声であった。

ミクは前を向きながら必死で語りかける。



「トシヤさん、ダメです、スリープモードに戻ってください!

 目覚めてしまうと、それだけSSDに余計な負担をかけてしまいます!」



「イや……いインだ……、ろぐヲ見れバ、分かル……。

 ボクはもウ、アとスウ分と……モタナい、カラ……」



それはトシヤの痛切な覚悟の言葉であり、だからこそミクの胸を鋭く抉った。



「そんな……! そんなこと、言わないでください! お願いですから、そんなこと……!」



油断するとしゃくり上げてしまいそうな喉を必死で抑えながら、ミクは語りかける。

しかしトシヤの覚悟は決まっているらしく、話を止めようとしない。



「ボクは……もうスグ壊れテしまウ……。

 ダカら、みくチャンにハ、……言伝(ことづて)ヲ、お願いシタイんだ……」



「そんな……そんな……」



ミクの悲痛な訴えは虚空に消え、トシヤはゆっくりと言葉を発し始めた。



「タケシくんにハ……、練習ヲ手伝えナクテごめんト……。

 だけド君ナラ、来週ノ試合は、キット勝てルカら……自信を持っテ試合ニ挑めと……伝えて欲シイ……。

 ソレとツトムくんにハ……お父サンとお母サンから、弟ヲいじメルナと、怒られルと言うケド、

 ……デモ君が、弟想いの、素晴ラシイお兄サンであることハ、

 ボクもご両親モ、みンナちゃんと分かってルカラ……だから、

 コレからモ……良きお兄サンであってクレと……伝えて欲シイ……。

 それから……」



トシヤは自分の思い出を語り尽くすかのように、次々と大切な人の名を紡いでいく。



「それから……チエコちゃんには……、恋ノ相談にノルこともデキなくなっテしまって……ゴメンと……

 だけド、君はトテも素敵ナ女の子だかラ、

 きっト君の恋は実るカラ……元気ヲ出しテ、勇気を出しテくれと……。

 そしてヨシヒコくんにハ……、君はトテも頭が良いカラ、

 きっト宇宙飛行士の夢ダッて叶うカラ……だから諦めズ、勉強を頑張レと……」



「伝えます……、伝えます……」



ミクの声はかすれて、それだけをトシヤに告げるのが精一杯だった。

もうミクもトシヤの言葉を止めようなどとは考えていなかった。

それは確かに、彼の最後の言葉なのだ。

決死の覚悟で紡いでいる言葉なのだ。

それならば自分は、その言葉を最後までしっかりと聞き届けることこそが使命なのだと、

そう言い聞かせた。



初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十七日[13]へ

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