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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十七日(日)[13]


「ノズエの奥サンは……モウだいぶオ年を召しテイテ……壊れタ扇風機を直せナイと、困ってイタンだ……

 これカラどんどん暑くナル……何とカ直しテあげテ欲しイ……。

 ソレに焼き鳥のヤマダさんにハ……店の前ヲ通るたびニ……差し入れヲもらっテしまって……

 本当にありガトウと……その心遣イが……何よりモ嬉しカッタと……」



ミクは涙を滂沱と流して、ただ彼の言葉に耳を傾ける。



「ボクが巡回をしていルとき……ある年配ノ奥さんカラ、

 ロぼットはあっちへ行ケ、怖イ、恐ろシイと、罵らレテ……

 そのとき、青果店のハシモトさんガ……ソイツは商店街ノ、自慢の警備員ダと、

 しっかりシタ仕事ヲしてクレテいると、擁護しテくれテ……、

 それがボクは、とテも嬉しカッタ……。

 ソレにタイチくんハ……お母サンから、ロぼっトなんかと遊ブナと、言わレタとき……、

 必死デ、トシヤは良いヤツダと、庇っテくれテ……、本当に、本当に嬉しカッタんだ……」



トシヤの言葉は、まさに彼の生き様そのものだった。

トシヤの皆に対する忠誠は、確かな気持ちとなって皆に伝わり、

だからこそ商店街の人々に愛され、子供たちから慕われたのだ。



そこでミクは気がついた。

こうしてトシヤの追憶と誠実な想いに触れるうちに、ミクはようやく気がついた。

ミクが初めてあの商店街を訪れたとき、なぜあれほどすんなりと人々から迎え入れられたのかを。

それは、トシヤがいてくれたからだ。

トシヤが日々の生活の中で、商店街の人々の心から、

アンドロイドに対する偏見や差別を取り除いてくれていたからだ。

彼の無機質な表情と朴訥とした言動は、あるいは人々から誤解を招いてしまうこともあったろうに、

それでも彼はその至誠でもって、人々に受け入れられる土台を築いてくれたのだ。



「トシヤさん……! トシヤさん……!」



ミクは感謝の言葉が出ない。

言葉は涙に濡れ、想いは悲嘆に暮れて、どうしても感謝の言葉を出すことができずにいた。



「ソレから……コトミへ……」



トシヤの言葉は、いよいよ最後の想いへ繋がろうとしていた。



「……君がボクの帰りヲ待ってイテくれるコトが、ボクにトッテ、かけがえのナイ幸せだっタ……。

 ボクの帰りヲ待ってイテくれテ、ありガトウ……。

 ボクの話ヲ聞いてくれテ、ありガトウ……。

 元々滅多ニ外へ出られナイ君のタメに、

 その日ノ出来事ヲできるダケ伝えヨウと思っテ始めた話だっタノに……、

 いつノ間にか、ボクの一人語りになッテしまった……。

 それナノニ、そんなボクのつまラナイ話に、いつマデモ耳を傾ケテくれテ、ありガトウ……。

 ボクが街で酷イ言葉で罵られて、落ち込ンデいるトキも、

 ずっト、そばにイテくれテ、ありガトウ……」



彼の言葉はどこまでも真摯で、健気で、だからこそ透明感溢れる純朴さを秘めながら、

ミクの胸に染み入ってきた。



「コトミ……君にハ謝らナクテはいけナイ……。

 君ハあれホドボクに幸せヲくれタのに、何モ恩返しガできナクテ、ゴメン……。

 何モできナクテ、ゴメン……。

 ……本当に、ありガトウ……。

 だからコソ、本当に、ゴメン……」



その言葉はまさしくトシヤの絶叫だった。

悲哀と痛嘆とをない交ぜにした、どこまでも哀しい、体の奥底から絞り出すような絶叫だった。



「……アア、そうか。ボクはようヤク気がツイた……。

 ボクは、タブン……コトミ、君のコトガ、好きダッタ……。

 おそラク君は、ボクのコトなんて、何とモ思っていナイだろうケド……。

 デモボクはキット、君のコトが、好きだった……」



トシヤは視線の先にコトミを見ているのだろうか。

まるで彼女自身に語りかけるように、トシヤの恋着は告げられた。



だからミクは、思い切って言葉を挟んだ。

喉を哀しみで潰されながら、悲嘆に全身を浸らせながら、それでもミクは全力で告げるのだ。



「トシヤさん、コトミさんも、あなたのことを好きだと言ってました!

 ずっとずっと好きだったと、あなたと一緒にいること、それだけが本当に幸せだと言ってました!

 あなたが一日の出来事を話してくれるのが本当に嬉しかった、

 子供たちのことを楽しそうに語るあなたの表情が好きだった、

 そんなあなたとの毎日の生活は、かけがえのない幸せなんだと、私に言ってくれましたよ!」



「……アア、そうカ、そうダッタのカ……」



トシヤの言葉はやはり平坦だ。



「……ナンダ、それナラ……モッと早ク言っテくれレバ、ボクも、

 これホド後悔するコトに、ナラナかったカモしれナイのに……」



それきり、口を噤むトシヤ。

ぞくりと背筋に嫌な予感が走る。



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