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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十八日(月)[2]



そして時刻は午前五時半になろうとしたとき、仮眠室の扉が開かれ佐々木渉子が出てきた。

腰を浮かせかけた熊ヶ谷に対し、佐々木はしっと唇に人差し指を当ててそれを制する。

彼女はゆっくりと後ろ手に扉を閉め、

自動販売機でコーヒーを買うと、剣持・熊ヶ谷の向かいのソファに腰掛けた。



それを待ちかねたように、熊ヶ谷が質問する。



「どうだった、ミクの様子は?」



「……ようやく、少し落ち着いたわ。でも……まだちょっと不安定だと思う」



佐々木はコーヒーを一口含めて、言葉を繋いだ。



「あの子ね、ここに来てからずっと、自分を責め続けてるの。

 私がもっと急いでいれば。

 遠回りしていなければ。

 ヘタに<KAITO>を動かしていなければ。

 あのゴミ置き場で待ち続けていれば。

 あの人達に抵抗していれば。

 一言大声を出していれば。

 モバイルフォン機能で助けを呼んでいれば。

 ……それはもう、自分が悪かったんだ、自分がもっとしっかりしていればって、

 ずっと後悔を繰り返すばかりなのよ」



「そんなの、あの子が悪いわけないじゃないか。

 あの子は<KAITO>を助けようとして、自分にできることを一生懸命しただけなんだ。

 それにミクが、その……襲われてしまったのは、あの子が悪いんじゃない。

 どう考えたって、悪いのは犯人なんだから。

 佐々木はちゃんとそのことを言ったのか?」



「そんなの当たり前じゃない熊ヶ谷くん。

 昨夜の状況を考えれば、どう考えたってあの子に非なんてあるわけがないわ。

 それなのにミクは、あれほど痛々しく後悔しているのよ。

 そんなの、誰だって助言するに決まってる。

 あなたは悪くない、悪いのは犯人であって、ミクは何も悪くないって。

 でも、そうしたら……」



そこで口を噤んでしまう佐々木。

どうやらその先を話すことにためらいを感じているらしい。



たっぷり一分ほど待ってみるものの、

それでも佐々木が話を始める様子を見せないため、熊ヶ谷が先を促した。



「……そうしたら、ミクはなんて?」



それに対し、ようやく佐々木は重い口を開いた。



「……そうしたらあの子、

 『あの人たちが悪いのなら、私はあの人達を憎んでも良いんですか?』って、逆に訊いてくるの……」



瞬間、熊ヶ谷は肩をびくりと震わせて、剣持は悲痛に表情を歪ませた。



「『私は自分が悪かったと思い詰めることであの人達を憎まずにいられるのに、

  私が悪くなくて、あの人達が悪いと言うのなら、私はあの人達を憎む他なくなってしまいます。

  アンドロイドの私は、本当に人間を憎んでも良いんですか?』って。

 ……涙を浮かべて、悲痛な表情でそんな風に訴えかけられたらさ、もう何も言い返せないわよ……」



はぁ、と深いため息をついて、佐々木は持っていたコーヒーの残りを一気にあおった。



アンドロイドが人間を憎んでも良いのか。



それは余りにも痛烈な皮肉となって、三人の脊髄を粉々に砕いた。

そのような残酷な質問、佐々木でなかったとしても誰にも答えられるわけがない。



「……それで?」



熊ヶ谷が促す。



「それで、ですって?」



しかしその問いかけは佐々木の気に障ったようだ。



「熊ヶ谷くん、あなたもたいがいイヤミな質問をするわよね。

 ミクにそう問い詰められて、涙さえ浮かべながら訴えかけられて、

 それでもなおあの子を理詰めで論破すれば良かったっていうの?

 そんな血も涙もないこと、できるわけがないわ! どうしてもと言うのなら自分でやればいい!

 だけどね、本当にそんなことするつもりなら、私はあなたを絶対に許さない! 一生軽蔑するわ!」



佐々木の剣幕に圧倒され、熊ヶ谷は自分の失言を悟った。



「ご、ごめん佐々木。

 俺はそんなつもりで訊いたんじゃなくて……、

 あの、その後はどうなったのかなって、先が気になっただけなんだ。

 佐々木の気に障ったのなら謝るよ、ごめん……」



「……ううん、いいの……。その、私の方こそ、ごめん。

 ……どうも、私も疲れてるみたいね、こんなちょっとしたことで腹を立ててしまうなんて」



気まずい空気が流れる。

剣持は手元のカップに両手を添えた。

中のコーヒーはすっかり冷えてしまって、とてもではないが飲む気になどなれない。



「……それで、ミクはその後どんな様子だったんだい?」



剣持が柔らかな物腰で尋ねる。

そう促されることを待っていたのか、佐々木はゆっくりと話し始めた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十八日(月)[3]へ

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