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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十八日(月)[3]



「それからずっとあの子は泣くばかりで……、私もどんな言葉をかければ良いかわからなくて、

 ずっとそばに付き添っていたんですけど……。

 しばらくして泣き止んだかと思ったら、少しの間、一人にしてほしいって言われて。

 ……正直まだ心配だったんですけど、それでも少しは安定したみたいだったから、

 そのまま部屋を出てきたんです」



「なるほど、ね……。ありがとう佐々木さん。辛い役目だったのに、ご苦労様」



「い、いえ、そんな……」



そう言うと微かに赤面して俯いてしまった。



いまの佐々木の話を総合すれば、結局ミクは昨夜の悪夢から脱しきれず、

気持ちの整理もおぼつかない状態のようだ。

だがそれも致し方ないことだろう。

佐々木は精神科医やカウンセラーでもない、ただの技術者にすぎないのだ。

そんな彼女に、傷ついたミクの支えになることなど土台無理な話と言えた。



剣持は仮眠室の向こうでうずくまっているミクの姿を想った。



(ミク……)



心の中で呟く。



そんな剣持の胸に去来するのは、はっきりとした罪悪感だ。

ミクが悲しむのも、ミクが傷つくのも、憎悪に身を焦がす罪悪に苛まれるのも、全て剣持の罪なのだ。

第二世代型アンドロイドの情動プログラムの骨子を設計し、

限りなく人間に近い心を造り出してしまった剣持が背負うべき、途方もない罪過であった。



そんな剣持が、彼女への罪滅ぼしとしてできることなど、高が知れている。

ミクの気持ちの整理がつくまで、ALKOS社のデータ引渡要請を突っぱねることくらいだ。

勿論、ミク自身が犯人確保に協力すると申し出れば、剣持はそれを全力でサポートするつもりでいる。

だが逆にミクがそれを望まないのであれば、どこまでも彼女を守るために動く覚悟であった。

例えそのことによってALKOS社とクリブトン社との間に軋轢が生れ、

両社の険悪な関係を修復するために剣持が責任を取らされることになろうとも、

それを甘んじて受け入れるだけの決意が、剣持の中で確かに固まっていた。



窓の外を見ると、太陽はその身を完全に出現させて、街の様相は朝の賑わしさを含みつつあった。

時計は午前七時を指している。

この辺が潮時だろう。



「熊谷くん、佐々木さん」



剣持のゆったりとした呼びかけに振り返る二人。



「昨夜遅くからこんな朝まで、本当にお疲れ様。

今日はもう出勤しなくて良いから、家に帰ってゆっくり休みなさい。

報告書なんかは僕が書いておくから」



言われた二人はしばし考えた後、いらえを返す。



「……いえ、私は残ろうと思います。

 やっぱりあの子が心配だし、何かあったら、女の私がいた方が色々と都合良いと思いますし」



「俺も同じです。今のミクを残して家に帰ったところで、とてもじゃありませんが休めませんよ。

 それよりも、剣持さんこそ少し休まれたらいかがですか?」



「僕なら心配には及ばないよ。

 こう見えても体力にはまだまだ自信があるんだ。

 それよりも……そうか、君たちは本当に強情だな」



「それはお互いさまだと思いますけどね」



佐々木の言葉で一同に笑いが起こる。



「……さて、それじゃあ月曜早々辛い一日になるかもしれないけど、ミクのためにもお互い頑張ろうか」



そう言うと、剣持はカップに残ったコーヒーを飲み干す。

冷えたコーヒーは泥水のような味がした。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十八日(月)[4]へ

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