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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十八日(月)[5]



やがて星登はその視線を、ミクの相貌へと向けた。

その瞳はただならぬ哀切と切実な痛悔、そして僅かながらの恐怖を秘めて、ミクへと向けられた。



「ミクは……」



星登の声は微かに震えていた。



「ミクは、……僕のことも、怖いかい?」



どうしてそんなことを訊くのだろう。

星登のことを怖がるなんて、そんなことあるわけがないのに。



だからミクは純粋とも素朴とも言える素直さで、その質問に答えたのだ。



「……星登さんが誰からも信じられなくなって、私が他の誰を信じることができなくなったとしても、

 私は、私だけは、星登さんを最後まで信じ通します。

 ……だって星登さんは、私にとって……、……特別な、男性ですから」



次の瞬間、ミクは身体ごと引き寄せられた。

星登に抱きすくめられたのだと気がついたのは、しばらくしてからだった。

星登はミクの身体を強く、本当に強く抱きしめた。

ミクは星登の胸に顔を埋めて、彼の力に身を任せ、ただ星登という存在を全身で感じ取っていた。



「ごめんな、ミク……、辛かったよな……」



星登の悲嘆に満ちた声音が頭上から降りてくる。



その声が余りにも辛そうで、哀しそうで、なぜだかミクも無性に哀しくなってしまって、そのまま泣いた。



星登の胸の中で、ミクは泣いた。

何が哀しかったのか分からないが、とにかく泣いた。

怖いとか、悔しいとか、そういう思いはどこにもなくて、ただやたらに泣けてきたのだ。

星登の温もりが心地よかった。

星登の匂いが甘かった。

だけど同時に、それら全てが哀しかった。



星登の力強い抱擁が続く間、しかしミクから彼を抱きしめることはなかった。

彼をもっと強く感じたい。

彼の身体にそのまま溶け入ってしまいたい。

そういった願望は確かにあったが、しかしミクが彼の背中に腕を回すことはなかった。

彼を抱きしめる資格を自分は持ち合わせていないと、そう思えたから。

だからせめて、彼の温もりを少しでも強く感じ取れるよう、

ミクは自分の身体をほんの少しだけ強く彼に預けるのみだった。



そうするうちに、ミクのモバイルフォン機能へ着信がきた。

クリブトンのフィールドエンジニアからだ。

指定された住所へ来たのに周辺には誰もおらず、途方にくれているという連絡だった。

ミクは事情を説明し、改めて星登のアパートへ来て貰うよう連絡した。

そうしてから時計を確認すると、最初に通報してから一時間半以上が経過していた。



そしてエンジニアがアパートを訪れ、トシヤの体を丁寧に車へ乗せた。

それでエンジニアの用事は終わったかと思いきや、彼はまた星登の部屋を訪れ、ある説明を始めた。

犯人逮捕のために、<初音ミク>を一時預からせて欲しいと。



星登は激昂した。

そんなことできるわけがないと。

興奮する星登を宥め、何とか彼の理解を得ようとするエンジニア。

しかしエンジニアはミクが性犯罪被害にあったことを知らないから、

二人の会話はどこまでも噛み合わず、結局、ミクが自分から捜査に協力すると申し出ることで決着した。



外出する準備を整え、玄関先で靴を履くミクに、星登が心配そうな面持ちで問うてきた。



「本当に大丈夫かい、ミク? 無理をする必要はないんだよ?」



「……多分、大丈夫です。

 それに……、きっと今の私には、これくらいしかできることはありませんから……」



それだけ答えると、ミクは玄関の扉を閉めた。





そうして訪れたクリブトン社開発センターであったが、

しかしいざ来てみれば、ミクの胸中は萎縮するばかりであった。



しかしそれはクリブトン社員の態度云々が悪いというわけではなく、あくまでミク個人の問題であった。

事実、社員から無理やり犯人の人相などを聞き出されるようなことはなかったし、

むしろ皆ミクを気遣ってくれてさえいたのだから。

犯行当時の状況を根掘り葉掘り質問されるのかと身構えていたミクにとって、

まずはミクのケアから始めようという姿勢を示してくれたのは意外だった。



だがその気遣いこそ、今のミクにとって必要なものであることを他ならぬミク自身が感じ始めていた。



佐々木はとてもミクに親身になってくれている。

しかしそれでも彼女に全ての状況を説明できるかといえば、きっとミクにはできない。

それは他者に対する防衛反応というか拒否感というか、

そういったものが自然に芽生えてしまっていたからだ。



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