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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十八日(月)[6]



今はただ寂しかった。

人恋しかった。

誰かに傍にいてほしかった。



……いや、『誰かに』ではない。

ミクは『星登に』傍にいてほしかったのだ。



星登に会いたい。

今すぐ星登に会いたい。

そしてあの温かな声で、もう一度『辛かったね』と言って欲しい。

そして抱きしめられたい。

強く、あのときよりもずっと強く、抱きしめて欲しい。

ミクは痛烈にそれを願った。



「……星登、さん……」



ミクの想いが痛切な囁きとなって漏れ出る。



「……痛ぁい、よ……痛ぁい、よ……」



もはやその声は涙に濡れて、無機質な仮眠室の中に反響していくだけだった。



そのベッドに星登の温もりは残されていないし、そのシーツに星登の匂いは残されていない。

だけど今のミクにとっては、このベッドだけが唯一の拠り所となっていた。

ぎゅっとシーツを握りしめ、胸元まで一気に引き寄せる。

そうしてただ黙然としながら、ミクは膝を抱きつつまんじりとするのみだった。



そうしてどれくらいの時間が過ぎただろうか。

スリープモードに移行することもなく、ただじっとベッドの上でうずくまっているうち、

時間の経過すら意識できなくなってきたころ。



ふいに、遠慮がちに扉をノックする音が聞こえた。

どうぞ、と返事する。



「ミク、気分はどう?」



佐々木だった。

続いて見知らぬ男性が姿を見せる。



「やあ、僕も部屋に入って良いかな?」



その男性がおそるおそると言った感じで尋ねてくる。

ミクは肯定で返した。



二人はベッドの隣にパイプ椅子を持ってきて、そこにそれぞれ腰掛けると、やおら男性が話し始めた。



「まずは自己紹介から始めさせてもらうよ。

 僕の名前は剣持日出樹。君たち<初音ミク>シリーズの開発責任者だ。よろしく」



よろしくお願いします、と軽くお辞儀して返す。



ケンモチ ヒデキ。



口の中で男の名を繰り返すが、その名前に聞き覚えはなかった。

ミクにプレインストールされたデータベースには

クリブトン社の役員その他重要人物の情報も記録されているため、

開発責任者ほどの地位にある人間であればミクのデータベースにも記録されているはずなのだが、

剣持という人物については初耳だった。

試しにデータベースを検索してみる。



「ああ、データベースを検索しても僕の名前は出てこないよ」



ミクの思惑を察したのか、剣持が忠告した。



「僕らアンドロイド開発陣の名前は機密情報扱いだからね。

 君たちアンドロイドのデータベースには記録されていないんだ」



せっかくだけどね、と言いながら苦笑いを浮かべる剣持。



「さて、こうして僕たちがここにいるのは、君と世間話をしにきたわけではないんだ。残念ながらね」



剣持は姿勢を正して、真摯な瞳をミクへ向ける。



「まず君が今ここにいる理由だけれど、君は<KAITO>を破壊した犯人の情報を提供するため、

ここクリブトンの開発センターまで来てくれた。

君の協力的な姿勢と、勇気ある決断には、本当に深く感謝している。

だけど現状を鑑みるに、今の君では、犯人確保に繋がる情報を提供することは、

 非常に難しいと考えているんだ」



そこで剣持は一旦言葉を切った。

どうやらミクからの反応を待っているらしい。



だからミクは、結構です、続けてください、と告げると、剣持は一度頷いてから言葉を続けた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」七月二十八日(月)[7]へ

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