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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)七月二十八日(月)[7]



「僕としては、君の意見を最大限尊重するつもりだ。

 具体的に言うと、君が条件付きで情報を提供してくれると言うならばその条件は絶対に遵守するし、

 もし君が情報を提供できないと言うのであれば、

 このまま君のマスターである緒方さんの自宅へお送りしよう。

 もちろん、今はまだ判断がつかないから一度帰らせて欲しい、というのも有りだ。

 そのときは、君の気が向いたときに改めて連絡をくれればいいし、

 そのまま連絡を絶ってくれても構わない。

 ……どうだろう、今の君の気持ちは?」



剣持は真剣な面持ちで、ミクの返答を待っている。

確かに、彼はミクを説得しにきたわけではなく、あくまでミクの意志を確認しに来ただけなのだろう。

それを疑う要素は今のところ見あたらない。



そして今のミクの本当の気持ちを言うならば、確かに星登のアパートへ帰りたいという想いが強かった。

しかし、本当にこのまま帰っても良いのかという自問があることも事実だ。

剣持は、一度家に帰ってから判断しても良いと言うが、実際に星登のアパートへ帰ってから、

この事件を思い出すだけの気力が沸き立つかどうか、正直自信がなかった。



そうして胸中で迷いを繰り返すうち、はっきりとした答えを今ここで出すことは難しいと思えた。

だから『いつ情報を提供するか』ということはこの際置いておいて、

そもそも『情報を提供するか否か』だけでもこの場で決めてしまった方が賢明だと思えた。



ミクは少し迷いながらも、己の気持ちを二人に告げた。



「私、正直に言えば……、犯人を捕まえて欲しいと思う反面、

 ……できるだけあの事件を思い出したくないし、

 私の画像ログが、他の誰かに見られるのも耐えられないって、

 ……そういう自分勝手な気持ちが、確かにあるんです……」



そこでミクは言葉を切り、二人の反応を伺う。

しかし二人はミクの言葉を否定も肯定もしない。

ただミクが話し始めるのをじっと待つだけだ。



「もし、もしですけれど……、私があの犯人たちの情報を何も提供しなかった場合、

 犯人を逮捕することは、できますか?」



ミクの質問に対し、剣持はあくまで真摯に対応する。



「正直、難しいと思う。今のところ犯人の目撃証言が少なすぎるし、情報を能動的に捜すにしても、

 今のクリブトンはそれを実施するだけの人材もコストも、持ち合わせていないんだ。

 だから犯人たちが次の犯行に及んで、その被害者から新しい情報を得られない限りは、

 彼らを逮捕することは難しいだろう」



ミクはきゅっと唇を噛む。

やはり、自分から何かしらの情報を提供しない限りは、あの犯人たちを捕まえることはできないのだ。



「……それでは、どの程度の情報を提供すれば、犯人を捕まえられますか?」



ミクの問いに対し、剣持はしばし黙考してから答えた。



「……どのような状況に対しても『絶対』という言葉はありえないから、

 どうしても曖昧な表現になってしまうけど……、

 それでも、犯人の特徴を教えてくれるだけでも大きな手がかりになることは確かだ。

 それが人相の似顔絵作成までできればもっと良いし、

 犯人の顔を判別できる画像ログならば、言うことなしだ。

 勿論、情報をどこまで提供するかは君次第だ」



「それを提供できれば、絶対に犯人を捕まえられると?」



剣持はすまなそうな顔をしてからいらえを返す。



「すまない、絶対という言葉は使えない。検挙の可能性が上がるとしか答えられないよ」



確かにその通りかもしれない。

そもそも彼は警察の人間ではないし、

仮に警察官だとしても犯人検挙に関して確約できることなどないだろう。

理解はできたが、少々納得のいきかねる答えでもあった。



しかし犯人の逮捕を望むのであれば、どこかで落し所を用意しなければいけないことは事実だ。

ミクは自分を無理やり納得させる。



「……わかりました、それじゃあ……」



そこまで言いかけて、雷撃がミクの脳天を突き抜けた。



それは本当に、何の前触れもなしに浮かんだ疑問だった。

それまでは思いもしなかった、しかし決定的な疑問。

これが解決できなければ、これ以上前に進むことができないくらいに。



しかしミクは、本当にその疑問を投げるべきか否か、逡巡していた。



「……あの……、」



「なんだい? 何でも質問してくれ。疑問は今のうちに解消しておくべきだ」



剣持のその言葉に、ミクはいよいよ決心して、遂にその疑問を投げてみせた。


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