スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月二日(土)[4]



常であれば、その微笑みはコトミの淑やかな強さとして感じられたかもしれない。

しかし今は違う。

今はトシヤを喪い、人々の悼みに触れている瞬間なのだ。

それでもなお絶やされることのない微笑みが、ミクにおいては何とも残酷な光景に映って仕方ないのだ。



「コトミさん、お願いですから、もう泣いてください。

 トシヤさんが死んで、こんなに辛くて哀しい気持ちを背負いながら、

 それでもコトミさんのような微笑みを湛えることは、それは強さでも何でもありません。

 ただの意固地です。

 だから、お願いですから、もう泣いてください。

 トシヤさんのためにも、泣いてあげてください……」



そう語るミク自身の瞳にも、うっすらと透明の膜が張られている。

油断するとすぐに溢れてしまいそうになる涙をぐっと堪えて、なんとか最後まで言葉を紡いでみせた。



コトミはそんなミクの訴えを受け止めて、ただじっと暗然たる面持ちで花々を見据えている。

そんなコトミの表情には依然として微笑みが浮かべられたままだが、

しかしそこにはどこか儚く寂しげな、哀切にも似た情動が見て取れた。



やがてコトミはゆっくりとため息をつき、そして酷く哀しげな声音でもって、遂にミクへ告白した。



「ねえミクちゃん……、実は私ね、笑うことしかできないの」



「……え?」



「言葉通りの意味よ。……私たち<MEIKO>は怒ることも泣くこともできない。

 ただこうして、じっと微笑む機能しか搭載されていないの」



それは体の奥を鷲掴みにされたかのような衝撃だった。



「私たち<MEIKO>や<KAITO>といった、

 第一世代型アンドロイドに搭載された情動プログラムはね、

 実はまだ技術的な欠点を残したまま出荷されたの。

 その欠点というのが、ある情動を忠実に再現するなら、

 他の情動を抑え込まなければいけないというものだった。

 そこで次の課題として、アンドロイドにはどの情動を特化させてどの情動を抑えるべきかが検討された。

 そうして<MEIKO>は秘書用途であることを考慮して

 、社内でのコミュニケーションを円滑にするために『微笑み』の機能を搭載して、

 その他の情動を犠牲にされたの。

 そして<KAITO>は『忠節』の情動に特化させて、他の情動をほぼ無効化された……。

 ……トシヤが普段から無表情で不器用だったのは、

 そうやって『忠節』の情動を強くさせすぎてしまったからなのよ」



それはミクにとって初めて知らされることだった。

<KAITO>が無表情なのは、警備業務に喜怒哀楽の情動は不必要だから搭載されなかっただけで、

<MEIKO>に至っては当時最高の情動プログラムを搭載されたとすら聞かされていたからだ。



「だからねミクちゃん、アンドロイドが泣いたり笑ったりできるようになったのは、

 ミクちゃんたち第二世代型からなの。

 だから私には、泣くことができない。

 哀しいという気持ちはあるし、苦しいと感じることもできる。

 だけど泣くことはできないの。

 だって、涙を流す機能そのものが搭載されていないのだから」



いつでも泰然とした微笑みを浮かべ、何にも動じず落ち着いた物腰を湛え続けていたコトミ。

いつしかミクはそんなコトミに対して、羨望にも近い憧れすら抱いていた。

しかしそれは何と浅はかで残酷な情動だったのだろう。

彼女はただそこで微笑むことしか許されない存在だったというのに。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月二日(土)[5]へ

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。