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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月二日(土)[5]



そこまで聞いたミクは遂に耐えきれなくなって、双眸から涙を溢れ流した。



「ごめんなさい、ごめんなさいコトミさん。私……、私、そうとは知らずに、なんて酷いことを……。

 コトミさんが、そんなに辛い立場にあったなんて、本当に知らなくて……、

 ごめんなさい、ごめんなさい……」



そうやって泣き続けるミクの頭を、コトミは優しく抱きしめる。

それは果てしない慈しみをも湛えた、紛れもない愛の抱擁であった。



「いいの、いいのよミクちゃん。それよりも、トシヤのために泣いてあげて。

 泣くことができない私の代わりに、めいっぱい泣いてあげて欲しいの」



そしてミクは泣いた。

滂沱として涙を流した。

次から次へと涙を溢れさせ、ただコトミの胸の中で泣き続けた。

コトミの悲哀のために。

トシヤの無念のために。

ミクはアンドロイドであるがゆえに抱えざるを得なかった痛みを何もかも呑み込んで、

ただ泣き続けるのだった。



コトミはミクを抱きしめて、ゆったりと髪を梳きながら、ミクの涙を受け止めていた。

やがてミクが少しずつ落ち着きを見せ始めると、やはり柔らかな口調でもって自身の気持ちを吐露した。



「……神様も残酷よね。微笑む以外に何もできないこの私に、恋することを覚えさせてしまうのだから。

 怒ることも泣くこともできない、こうして好きな人が死んでもなお、

 涙ひとつ零すことすらできないというのに、

 ……どうして、……どうして恋なんてしてしまったのかしら……。

 こんなに、……これほどまでに泣けないことを悔しいと感じるなんて、今まで一度だってなかった……」



「……コトミさん、それはきっと、違いますよ」



ミクは涙を飲み込んで、引きつりそうになる喉を堪えながら、どうにかコトミに告げてみせた。



「……トシヤさん、最後に仰ってました。コトミさんに伝えて欲しいことがあるって。

 ……今まで話を聞いてくれてありがとう、帰りを待っていてくれて嬉しかった、

 落ち込んでいるときも傍にいてくれて本当にありがとうって、確かに仰ってましたよ。

 そして最後の最後で、コトミさんのことを好きだって、そう告げられました。

 きっとトシヤさんは、コトミさんの微笑みがあったからこそ日々に幸せを感じることができて、

 そしてそんなコトミさんだからこそ、好きになったんだと思うんです」



コトミは驚いたようにミクを見つめ、そして捧げられた花束へ視線を向けた。

花々へ向けられたコトミの表情は、今にも泣きそうなほどに歪められながら、

しかし涙を流すことなく、ただ痛苦を伴いながらそこに縫い付けられるのみだった。



「……何よ、あのバカ」



コトミの声は微かに震えている。



「……今さら遅すぎるのよ。

 しかも大事な告白をミクちゃんに伝言するなんてさ、……もう、恥ずかしいったらないじゃないの……」



コトミの声音には悲哀と歓喜と痛悔とが込められて、この場にいないトシヤへと捧げられた。



いつの間にか空はどこかおぼつかぬ灰色で占められて、徐々に残映の頃合いへさしかかろうとしている。



この曖昧な空のように、ミクの胸奥は晴れることなく、

コトミの悔恨はより一層深まり、トシヤの未練はただふわふわとさまよい続けている。

そんな中で、ミクは静かに己へ問いかけた。

果たして自分たちアンドロイドに、安息の日々は訪れるのだろうかと。

それは慨然にも似た情動となって、胸の奥で密やかに滾られるのだった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月二日(土)[6]へ

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