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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月二日(土)[6]



ミクはコトミに別れを告げ、アパートへの帰路についていた。



その途中で、偶然にも同じくアパートに向かっているのだろう凜奈に出くわした。

手には買い物袋が提げられている。

どうやら今夜は凜奈が夕食を振る舞うつもりらしい。



ミクは凜奈に駆け寄って話しかけた。



「奥様、星登さんのアパートに向かう途中ですよね? 荷物は私が持ちます」



話しかけられた凜奈は面倒そうにミクへ視線をやってから、荷物を無造作に差し出した。



「……そうね、これくらいは役に立ってもらわないと。アンタはロボットなんだしね」



ちくりとミクの胸に痛みが走る。

凜奈の態度はあくまで冷たい。

おそらくこの先も、彼女の態度だけは変わることがないのだろう。



供にアパートへの帰途につくミクと凜奈。

二人の間に会話はない。

ただ重々しい沈黙がのしかかっているだけだ。

だがミクは凜奈の態度の中に、いつもと変わらぬようでありながら、

しかしいつにも増して冷たく刺々しい気配が含まれているのを感じ取っていた。

特に凄まじいのは、その視線である。

それこそがまさに鋭利な刃物となって周囲の空気を切り刻んでいるのだ。



(……何かあったのかな?)



好奇心からくる疑問がミクの胸をよぎるものの、

しかし質問を投げたところで凜奈がまともに返答するわけがないと思い至り、

結局ミクはそのまま黙々と歩き続けた。



そして二人がアパートの階段を上っているとき、凜奈がぼそりと呟いた。



「……まったく、たかがアンドロイドがひとつ壊れたくらいで、何だってのよ。

 ウザイったらありゃしない」



瞬間、ミクの背筋をおぞましい悪寒が走った。

それはまるで、自身ですら触れることのできない体の内側を冷たい手でぞわりと撫ぜられたような、

言いようのない嫌悪感だった。



ミクは階段の最上段に足をかけたまま振り返って、凜奈を真正面から見据えた。

凜奈はミクより二段下にいる。

身長差はあれども、この段差ではミクが上から見下ろす形になった。



「今仰ったこと、何の話ですか?」



ミクは胸の中で滾る情動を隠そうともせず、きりと睨み付けたまま詰問した。



それに対する凜奈はといえば、ミクの剣幕に物怖じする気配も見せず、悠然といらえを返した。



「商店街での話よ。

 どの店に行ってもトシヤとかいうアンドロイドの話ばっかりで、正直うんざりしたわ。

 大体、高々アンドロイド一体が壊れたくらいで大げさなのよ。

 壊れて使い物にならなくなったのなら、また新しく買い直せば良いだけの話じゃない。

 それなのにあの商店街の連中ときたら、

 よってたかってまるで私が悪者みたいな扱いして、ホント頭にくるわ」



吐き捨てるように言い放つ凜奈。

きっと彼女のことだから、いま彼女が語ったことをそのまま人々の前で口にしたのだろう。

それを皆からその場で糾弾されたに違いない。

彼女が不機嫌な理由はこれだったのかとミクは得心した。



だがミクは、凜奈が怒りを露わにする理由を理解できても、

それを納得することなどできるはずもなかった。

凜奈はトシヤという一人の人格を否定し、まさにモノとして軽々しく扱っているのだから。



ミクはたまらず凜奈に反論する。



「どうしてそんなことを言うんですか!

 トシヤさんは皆さんから慕われて、信頼されて、

 だからこそトシヤさんが死んでしまったことを悲しまれているのに! 

 亡くなった方に対してその言葉はあんまりだと思います!」



「死んだ? 壊れたの間違いでしょ?

 たかがロボットの分際で、人間みたいな言葉使わないでよ、気持ち悪い」



かっと頭が熱くなった。

胸奥で滾る情動は更にその激しさを増していく。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月二日(土)[7]へ

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