スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月二日(土)[7]



「トシヤさんがどうして死んでしまったのか、あなたはご存知なんですか?

 トシヤさんは、襲われそうになっていた女性を助けようとして、

 代わりにリンチを受けて殺されてしまったんですよ! 

 人間の為に尽くして、その結果死んでしまった彼の最期をそんな風に言うなんて、

 余りにも酷すぎます!」



「アンタ何を言ってんのよ。ロボットが人間の為に尽くすのは当然でしょ?

 工場のロボットだって二十四時間働き続けているのに、あれは文句一つこぼさないわ。

 いいえ、アンタらアンドロイドは文句や口答えをしてくる分、もっと質が悪いわよね」



「そんな……! 私たちは、人間の奴隷でしかないと言うんですか?

 私たちに自由はありえないと言うんですか? 

 あなたたちが死ねと命じたなら、私たちは生存する資格すら奪われるとでも言うんですか!」



「その通りよ」



凜奈の言葉は、冷酷にミクの身体を貫く。



凜奈は弱者を嘲り笑うような面持ちで、ミクを睨み付けている。



「今更何を言っているの? そんなこと当たり前じゃない。

 アンタらアンドロイドは、私たち人間に服従するために生まれてきたのよ?

 それならアンドロイドの自由は、生殺与奪の全てにいたるまで、人間に掌握されて然るべきだわ」



凜奈の常軌を逸した高慢な言動に、もはやミクは返す言葉すら見つけられずにいた。



何という傲慢さだろうか。



ただ自分が人間であり、相手がアンドロイドであるというだけで、

どうしてこれほどまでに残酷な態度を取ることができるのか。



もはやミクの内で燻る鼓動は炎熱の激しさをも帯び始め、

じわじわと、しかし着実に、凜奈への反感を強めていた。



「私達は、仰る通りアンドロイドです。広義では確かにロボットとも言い換えられます。

 だけど、そんな私でも、トシヤさんがいなくなってしまったことを、とても悲しいと感じられるんです!

 そして商店街の皆さんも凄く悲しんでくれています! 

 法的に言えば、確かに私達は人間ではありませんけど、

 それでも、悲しむ気持ちも、悲しんでくれる人たちも、確かにいるんです! 

 トシヤさんを悼んでくれる人たちの心まで、中傷しないでください!」



もはや理屈ではない。

ミクは体の奥底からせり上がってくる衝動を、そのまま口にするだけだった。



「それが気持ち悪いって言ってんのよ!」



それまで悠然と構えていた凜奈が、遂に声を荒げて反論を始める。



「所詮アンタたちは人間に作られた道具じゃない!

 その顔も、髪も、胸も、腕も、手も、指も、足も、性器だって、全部人間に作られたものでしょう?

 気持ち悪い、本当に気持ち悪いったらないわ! 

 商店街の人たちは、そのロボットを悼んでるって言ったわね? 

 くだらない! そもそもアンタたちが言ってる『ロボットの気持ち』とやらだって、

 人間が作ったプログラムに過ぎないじゃない! 

 そんなものが、本当に人間と同じ『心』だなんてどうして言えるってのよ!」



凜奈の言葉にぎくりと身を強ばらせるミク。

己がこれまで抱いてきた喜怒哀楽という感情、それまでもが作り物であると断ずる凜奈の言葉。

それはかつてミク自身が剣持へ投げた疑問そのものであり、

ミクを諦観たらしめた痛切なまでの現実であった。



(アンドロイドが抱く『ココロ』と、人間が生まれながらに持ちあわせる『心』とは、同一たり得ない)



剣持からの回答がミクの胸裏にまざまざとよみがえって、ミクの気力をどん底にまで突き落とした。



沈痛に歪めるミクの表情を見た凜奈は、

自分の言葉がミクの脆い部分を深々と抉ったことを悟ったのだろう。

敵の弱点を見抜いた凜奈は、弱った獲物を執拗に追い回す肉食獣のように、

次々と言葉の牙を突き立ててきた。



「今年の春頃、アンタ星登に怒鳴られたんですってね?」



ひっと息を飲み込むミク。

なぜこの女がそのことを知っているのか。



「その日の夜、星登は結局アパートに帰ってこなかったでしょう?

 あの夜、彼がどこにいたか知ってる? 私とホテルで一晩過ごしてたのよ。

 アンタを家に置いたままでね」



凜奈の言葉は巨大な万力となって、ミクの身体を容赦なく圧し潰そうとしている。



そして勝ち誇るような口調で語る凜奈の表情は、獰猛な嗜虐性に富んでいた。



「あの日、星登がどんな相談を私に持ちかけてきたか知ってる?

 あんたの『ココロ』を信じる事が出来ないって言って相談してきたのよ。

 アンドロイドに理解を示している星登でさえ、

 あんたたちアンドロイドの『ココロ』なんか、芯から信じ切れていないのよ」



がつんと頭を殴られたのかと思った。

それほどまでにその言葉は衝撃的で、余りにも残酷な告発であった。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月二日(土)[8]へ

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。