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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第四章~兇行~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月二日(土)[8]



(……星登さんまで?)



凜奈の言葉はミクの体を完膚無きまでに叩きのめした。

徐々に音が遠のいていく。

視界までもが暗くなっていく。

世界から色が失せていく。

セミの歌も、風鈴の音楽も、風の声も、何もかもが意味を無くして、

その先には虚ろな混沌だけがたゆたうのみだった。



「ロボットの心とやらに感化された人たちだって、気持ち悪いったらないわよ。

 ロボットの死を悼む? 冗談は大概にしてよね。

 作り物に過ぎないただの操り人形に、人間が良いように踊らされてどうすんのよ。

 本末転倒にもほどがあるわ」



凜奈の言葉はミクの胸奥を絶え間なく刺し貫いていく。



その結果ミクの中で紡ぎ出されていく、無限の懐疑。



(私たちに『心』はないの?)



(私たちアンドロイドに『心』はないの?)



(不器用ながら子供たちを愛したトシヤさんにも、彼の死を悲しそうな笑顔で受け入れたコトミさんにも、

 そして星登さんを想う私の中にも、『心』はあり得ないの?)



それら哀しみに満ちた疑問の果てで、遂にミクの中に、余りにも危険で狂暴な疑問が生まれてしまった。



(……それなら、どうして?)





どうして、目の前で醜く顔を歪めるこの女には、『心』があるのよ!





いまやミクは己の中で燻る情動が紛れもない敵意であることを意識して、

『人間』の凜奈に真っ向から対峙していた。



対する凜奈はミクの視線に気圧されることなく、あくまで威圧的に言葉を重ねていく。



「この街の人たちはホントどうかしてるとしか思えないわよ!

 トシヤとかいうロボットを悼む人も気持ち悪いし、アンタなんかに骨を抜かれてる星登も気持ち悪い!

 星登は、星登は人間の私と結ばれるの! それが一番正しいのよ! 

 人間は人間と幸せになるのが、本当の幸せなんだから!」



星登を中傷する言葉に、ミクの感情はいよいよ臨界を越えた。

それと同時に冷静な判断力がもたらされ、遂にはある決定的な事実に気づくことができたのである。

それは凜奈を追い詰める致命的な攻撃になり得たが、

しかし凜奈への憤怒に身を浸らせるミクにとって、

その事実を彼女に突きつけることに迷いなどするはずもなかった。



そしてミクは容赦なく告げる。



「……あなたもしかして、私に嫉妬してるの?」



明らかに動揺する凜奈。

しかしミクは攻撃の手を緩めない。



「あなた以前言ってたわね? 星登さんのこと、高校の頃からずっと好きだったって。

 ということは、今までずっと自分に振り向いてくれなかったということでしょ? 

 何よ、それってつまりは自分に何の魅力もなかっただけのことじゃない。

 それをあなたは、まるで私が星登さんを誑かしたみたいな言い方して。

 責任転嫁にもほどがあるわ」



ミクの追い詰めるような言葉は続く。



もはやミクの胸裏では煉獄さながらに怒りが燃えさかり、ミクの瞳には渾身の憎悪が込められている。

トシヤを殺した人間に対する怒り。

自分をレイプした人間に対する怒り。

性交渉という機能が、人間の汚らしい欲望を満たすことにしか利用できない自分への怒り。

性行為そのものが『生命』という奇跡と意義を内包している凜奈への嫉妬。



それらの感情がぐるぐると渦巻いて、ミクの情動は激烈に燃え上がる一方だった。



「それにあなた、こうも言ってたわよね。

 たびたび星登さんと遊びに行ったりもしたけれど、やっぱり恋人のような関係にはなれなかったって。

 そして私が起動されてからは、いっそう自分を相手してくれなくなったって。

 何よそれ、たかだか『ロボット』に恋愛で負けたことを自分から告白しただけじゃないの」



普段のミクからは想像できないほどの、冷酷で挑発的な言葉の数々。



それもそのはず、ミクの中で渦巻く情動の全てはまさしく憎悪の坩堝と化して、

ミクの体を恐るべき力で衝き動かしているのだ。


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