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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第五章~涕涙~

幕間 其の四[1]




第一世代型アンドロイド〈MEIKO〉の発売から数年、

クリブトン社は第二世代型アンドロイドの開発に着手した。



特に第二世代型アンドロイドでは、法人顧客のみならず個人顧客をも購買層に組み込み、

その使用用途は介護及び看護用途として開発することを発表した。

これはアンドロイドへの偏見をなくすために、

人間ともっとも多く触れ合う仕事にアンドロイドを従事させることで、

両者の垣根を取り払いたいと剣持が強く訴えかけ、それに伊東社長が答えた形の決定だった。



当時発表された第二世代型の開発方針の中で特徴的なのは、第一世代型で実装された技術の見直しと、

生産と保守が困難になると予想されるハードウェアの一新だった。



第一世代型と変更になったハードウェアとして、例えば体の動きをつかさどる電磁筋繊維が挙げられる。

電磁筋繊維はより信頼性と可用性を増すことを目的に、交換が容易な導電性の伸縮プラスチックを採用して、

同時にスムーズな動きを実現させることに成功したのである。



また睡眠に関する仕様にも変更が加えられた。

従来のアンドロイドでは四十八時間以内に睡眠をとることが推奨されており、

保守対象となる限界連続稼働時間は七十二時間であった。

特に二十四時間以上連続稼働させると、暫時型揮発性記憶領域――すれ違った人間の顔や街のビルの形状など、

人間ならばすぐに忘れてしまうような情報を確保しておく領域――がいっきに膨れあがり、

七十二時間稼働させた場合には、

暫時型揮発性記憶領域に必要な容量が数ペタバイト規模にもなってしまうのだ。

そのような事情から、アンドロイドの三次キャッシュには十ペタバイトもの大容量が用意されていたのだが、

実はこれまでのアンドロイド活用事例を調査したところ、

アンドロイドを二十時間以上連続稼働させた事例は殆どなく、

三次キャッシュは未使用のままであるケースが大部分を占めた。

何故なら定期的な処理をシステムに施す場合、二日に一度という運用は管理者にとって極めて非効率的なのだ。

例えば一週間は七日あるし、一ヶ月は三十一日ある月もある。

そして一年は三六五日だ。

つまり暦というものはほとんどが奇数の周期で支配されているため、

偶数である『二日』という縛りは極めて都合が悪いのだ。

したがって殆どの企業では二日に一度の特別な運用をするのではなく、

管理負担の軽減とアンドロイドの延命に繋げることを理由に、

アンドロイドに対して二十時間以内に睡眠を取らせる運用を選択していた。

こういった先例から、第二世代型は推奨稼働時間を三十六時間に短縮し、

限界連続稼働時間を四十八時間とした。

そうすることでキャッシュ容量を抑えアンドロイドの廉価化に繋げたのである。

このようにしてクリブトン社は個人顧客向けアンドロイドに向けての課題をひとつひとつクリアしていった。



だが第二世代型アンドロイド最大の特徴は、新たに搭載される改良型の情動プログラムであった。

しかもこの新型の情動プログラムは、アンドロイドテクノロジーの麒麟児と名高い

剣持日出樹その人が設計と開発を行うということでも、業界を騒然とさせた。

果たしてかの天才は今回どんな技術を実現してみせるのか。

世界中の技術者、科学者、SF愛好家たちは剣持が世に送り出すアンドロイドの姿を、

瞳を爛々と輝かせながら待ち続けたのである。





さて、開発当初に剣持が目指した新型の情動プログラムとは、

かつて部下の熊ヶ谷が開発した旧型の情動プログラムに改良を加えて、

より小さな計算処理環境でもプログラムを通常稼働できるようにするというものだった。

すなわち各種情動表現に割けられるプロセッサパワーを高効率化することで、

アンドロイドの情動をより人間的にする計画だったのだ。



だが剣持の思惑に反して、情動プログラムの高効率化計画は遅々として進まなかった。



旧型の情動プログラムは、剣持が開発したニューロン型プロセッサ上で単一プロセスとして起動される。

起動及び稼働中に生じる膨大な計算は、

プロセッサを形成する六五五三六個のチップを用いて並列計算されるわけだが、

この並列計算はマルチスレッドとしてOSが管理すると同時に、

ニューロン型プロセッサとは独立して搭載されたマイクロプロセッサによっても行われる。

つまりプログラムの並列計算は、ソフトウェアとマイクロプログラムを

同時に利用することで効率的な計算を実現させているのだが、

実はこの並列計算という概念そのものにボトルネックが存在することがわかった。

並列計算する際には当然ひとつのチップで計算された処理結果を他のチップへデータ伝送する必要があるが、

このデータ伝送という概念そのものがボトルネックになっていたのだ。

剣持はかつて、二分岐ツリー伝達アルゴリズムという画期的な方法により、

データ伝送によって生じる遅延を○.六マイクロ秒にまで縮めたのだが、

しかしたとえどれほど短い時間であったとしても、

遅延という事実そのものが情動プログラムの高効率化に大きな歯止めをかけていたのである。

つまり情動プログラムの性能を向上させるためには、プログラムそのものの改良だけではなく、

プロセッサテクノロジーと合わせて性能を向上させていかなければならないことがわかったのだ。

通常のシステムでは、○.六マイクロ秒という時間は遅延などとは見なされないことからも、

アンドロイド開発には非常に繊細なデザインを要求されることが示されている。



情動プログラムを動かすには大きなプロセッサパワーが必要となるため、

多数のチップをメインプロセッサに据えなければならない。

そしてそれらのチップを運用するには並列計算させることが最も効率的なのだが、

そうするとデータ伝送遅延が発生し性能向上が見込めなくなってしまう。

まさに袋小路であった。



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