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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第五章~涕涙~

幕間 其の四[3]



ここで剣持がプライオリティという概念を採用したのには三つ理由がある。



ひとつはプロセッサパワーの不足を補うためだ。

各微小システムではひとつの情動しか処理しないとはいえ、情動パターンは全部で二五〇〇個用意されている。

すなわち、アンドロイドのメインプロセッサを少なくとも

二五〇〇個のシステムに分割しなければならないのだ。

これではいくらシンプルな情動といえども、すべての情動に対して充分な処理能力を与えることはできない。

そこでプライオリティという概念を導入し、

このプライオリティ番号が小さい微小システムほど

優先的にチップとノードを多く割り振られる仕様にすることで、

各微小システムがそれぞれ必要とするタイミングで充分な処理能力を得られるようにしたのだ。



二つ目の理由がデータ伝送の際に生じる遅延の問題を解決するためだ。

そもそも従来の情動プログラムでは、

マルチスレッドで処理された演算結果を改めて情動プログラムがまとめ上げ、

再演算を施し、アンドロイドの表層にどのような情動を顕現させるかを決定していた。

この『まとめ上げ』と『再演算』の二プロセスを経由するために

データ遅延が課題として浮かびあがってきたのだが、

今回剣持が考案したシステムではプライオリティによって各情動の処理能力に差違を付けられており、

そしてアンドロイドの表面上に現れる情動はその処理能力の優劣によって表現される仕様にしたのである。

これは従来の『再演算』の処理が大幅に削減されたことを意味し、

データ遅延の問題を実質無効化してしまったのである。



そして最後の理由だが、第二世代型アンドロイドのもっとも驚くべき特性を搭載するためだった。

第一世代型の情動プログラムでは、どの情動を強調するか初期値として設定されており、

その初期値に基づいてアンドロイドの表層に現れる感情を演算していたのである。

だが剣持考案の新型プログラムにおいては、

アンドロイドの情動はプライオリティを決定するナンバリングプログラムに支配される。

このプログラムは非常に単純なアルゴリズムで動くため、

そこに付加的な要素として学習プログラムを追加することで、

ナンバリングプログラムはプライオリティ決定時に『環境』の影響を

大いに受けた数値を割り振ることができるようになるのだ。

すなわち第二世代型アンドロイドは、己が置かれた環境によって、実に多彩な〈個性〉を見せるのだ。



このように剣持はメインプロセッサの処理能力をまるで液体のように、柔軟に、

そして大胆に分散・結合させることで、アンドロイドに極めて多様な感情と、

〈個性〉という驚くべき能力を搭載することに成功したのである。



それはまさに魔法であった。



誰もが成功するとは思えなかった、情動プログラムをマルチプロセスとして稼働させるという大胆な発想。

それは人間に置き換えれば『多重人格』という精神状態に酷似しているにもかかわらず、

それを以てしてひとつの意識を生もうという無謀とすらいえる試み。

だが天才技術者の頭脳にははっきりと未来絵図が描かれていたのである。

幾多の情動プログラムをプライオリティという概念で制御することで、

アンドロイドにはひとつの〈意識〉が生まれ、かつ多様な感情を見せるその姿が。

剣持はこのシステムを『多重人格性システム』と名付け、次期アンドロイドへ搭載することを決定した。



かくして第二世代型アンドロイドの試験体は完成し、いよいよフィールドテストを残すのみとなった。

フィールドテストとは、試験体アンドロイドを医療施設や福祉施設へ派遣して現場の作業に従事させ、

現場レベルでの実験データを採取してくるテストである。

つまりは実地テストのことであり、そこで得られた結果をもとに出荷前の最後の調整を施すのだ。



社員の誰もが――すなわち剣持までもが――このフィールドテストは問題なくクリアできると考えていた。

せいぜいがナンバリングプログラムの学習精度に微調整を加える程度で、

すぐにでも出荷できると楽観していたのだ。

それほど第二世代型アンドロイドの完成度は高く、極めて豊潤な情動を示してみせたのである。



だが皆の期待を裏切るかのように各地に派遣されたアンドロイドは、

そのことごとくが試験中にフリーズを起こし、そして二度と目覚めないという状態に陥ったのだ。

短いもので一週間、長いものでも一ヶ月以内にその現象は発生し、

次々と試験体アンドロイドがクリブトン開発センターへと送り返されてきた。



剣持たちがそれらフリーズしたアンドロイドのログを解析したところ、

余りにも哀しく、無残な現実を思い知らされた。



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