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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第五章~涕涙~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月九日(土)[2]


一時は県警に押収された〈初音ミク〉であったが、

警察の捜査班でも内部データを抽出することができなかったため、

捜査協力というかたちで〈初音ミク〉はクリブトン社へ送られ、

データ抽出のために開発チームが昼夜問わず解析を行っていた。

だが事件から一週間が経過した今もなお、データを抽出できずにいる。

上層部からは自社製アンドロイドのネガティブキャンペーンを食い止めるために

一刻も早いログの取得をせっつかれていたが、

言われるまでもなく熊ヶ谷たちは最善の努力を繰り返していた。

彼らもまた、何としても〈初音ミク〉の無実を証明したいという気持ちで行動していたからだ。





奇しくも彼女は今月初旬にも別件でこの開発センターを訪れており、

その際には悲惨な性犯罪事件の被害者として、

熊ヶ谷をはじめ剣持や佐々木とも会話を交わした仲だ。

だからこそ熊ヶ谷は思う。

哀しい事件の被害者として蹂躙され、痛ましい事故の当事者として眠る彼女の胸中は、

どのような情動で満たされているのだろうかと。

そんな彼女の気持ちを救い癒すことはできないかもしれないが、

せめて彼女を取り巻く世間からのバッシングをいくらかでも和らげることができるのであれば、

そのための努力を惜しむ理由などあるわけがなかった。





そんな折、コンビニの買い物から帰ってきた剣持が背後から話しかけてきた。



「どうだい、進捗は?」



「やっぱりだめですね。

 フィールドテストのときと同じように、

 こちらからの呼びかけにまったく反応しないままです。

 デバイスの起動は完了してますし、五感をつかさどるSIOS(Sensation I/O System)も

 微弱ながら稼働しているので、

 あとはプロセッサの微小システムと

 マイクロプログラムの問題を解決すれば良い筈なんですけど……」



「その最後の一手がうまくいかない?」



「ええ、その通りです。

 オーティズムモードへ移行した微小システムと正常稼働している微小システムを

 仮想ハードワイヤードで接続して起動させれば、

 オーティズムモードのプライオリティが下げられるかと思って試してみたんですけど、

 やっぱりだめでした。

 オーティズムモードのプライオリティが変化するどころか、

 どの微小システムを見てもナンバリングに変更があったものはありませんでしたよ。

 仮想接続が強制切断されてそれっきりです」



「なるほど、ね……」





剣持はそう呻きながら、先ほどコンビニで買ってきたのだろうあんパンをかじり始めた。



「……剣持さん、よく食べられますね。

 ここんとこずっと徹夜続きでしょう?」



「ん? うん、まあね。でもほら、食べないと力が出ないしさ。

 熊ヶ谷くんも食べるかい? おにぎりでよければ梅と高菜があるけど」



「いえ、遠慮しておきます。

 俺胃腸が丈夫じゃないんで、寝不足が続くと食べ物を受け付けなくなるんですよ」



「おや、それは良くないね。まだ若いのに。少しだけでも食べておいた方が良いよ。

 梅干しなら消化に良いし、食べておきなさい」





そう言いながら剣持は無理やり梅おにぎりを押しつけた。

熊ヶ谷は渋々そのおにぎりを口に含む。



「ところで熊ヶ谷くんも色々と試してくれているみたいだけど、

 QBACはもう試してみたのかい?」





QBACとはQuestion and answer type BAsic Communication toolの略で、

問答型基本コミュニケーションツールと訳される。

これはアンドロイドに対する最も基本的なコミュニケーションツールであり、音声や視覚ではなく、

コンピュータそのものを介してアンドロイドとコミュニケーションを図るものだ。

情動プログラムや多重人格性システムなど

アンドロイドの〈意識〉を形成するシステムの障害時には、

問題を切り分けるため最初に用いられるツールである。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月九日[3]へ
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