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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第五章~涕涙~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月九日(土)[6]


そんな折、おもむろに文代が口を開いた。



「……ミクちゃんは、帰ってこられそうなのかい?」





星登は一瞬言葉を詰まらせる。



「……正直、わかりません。

 今回の事件は、もう僕の手の届かないところをひた走っているんです。

 僕が警察に聴取されたときも、僕のアンドロイド使用状況が

 約款に何ら抵触していなかったとわかると、あっという間に釈放されましたし……。

 僕からクリブトン社へミクの状況を尋ねてみても、

 『捜査情報に関わることなのでお答えできません』

 と言われるばかりで、いまミクがどこにいて、どんなことをされてるのか、

 そしていつ帰ってこられるのか、それとも帰ってこられないのか、

 それすらもわからないんです」



「…そうかい……」





文代は表情を沈痛に歪める。



「……でも、」

星登は言葉を絞り出した。

「それでも、僕はミクの帰りを待ち続けようと思います。

 僕が彼女にできることと言ったら、もうそれくらいしかないから……」



「それで?」



「……え?」



「ミクちゃんが帰ってくるのを待って、それでどうするんだい?」





文代は花への水やりを終え、淡々と星登へ問うてくる。



「正直な気持ちを言わせてもらうとさ、私には緒方さんが信じられないのよ」





ぴしゃりと言い放つ文代。



「あんただってミクちゃんの気持ちにはずっと前から気がついていたんだろう?

 それなのにミクちゃんの気持ちを無視して、こそこそとミクちゃんから逃げて、

 他の女性と結婚に至って。

 ミクちゃんはあんたと一緒に暮らしてるパートナーだろう? 

 結婚後だって一緒に暮らすつもりだったんだろう? 

 それなのに、どうしてずっとミクちゃんの気持ちから逃げるような行動ばかりしてたのさ。

 ミクちゃんのことを好きでなくなったのなら、それはそれで仕方ないさね。

 だけど、少なくとも彼女にはそのことをしっかり告げるべきだったよ。

 そして、ミクちゃんに気持ちの整理を付ける猶予を与えてあげるべきだった。

 それなのに、あんたはミクちゃんの知らぬところで逢瀬を重ねて、子供まで作ってきて。

 私にはね、あんたのその行動が、余りにも不誠実に映って仕方ないのさ。

 そんなあんたから今さら『ミクちゃんの帰りを待ち続ける』なんて言われても、

 白々しい言い訳にしか聞こえないよ」





静かでありながら、壮絶な怒気を孕ませた文代の言葉。

それらは星登の胸底に深く染み入り、慚悔の念を呼び起こすのに充分な力を持っていた。



「私はね、ミクちゃんのことが大好きよ。

 あの子を見てるとね、もし私に娘や孫がいたらこんな楽しい生活を送れていたのかしらって、

 年甲斐もなく幸せな想像をしてしまうくらい、あの子を愛らしく想ってるのよ。

 だからあの子のためにも、あんたの本当の気持ちを聞かせておくれ」

そして遂に文代は凄絶な問いを発するに至る。

「あんたにとって、ミクちゃんは何なんだい」





回答を保留することも曖昧な態度をとることすらも許さぬ、強烈な圧力を伴うその問いかけ。

だから星登は、誠実に、そして正直に己の心中を吐露するほかなかった。



「……分かりません、僕は、ミクがわからないんです……」



「分からないって……、あんたね、今さらそんな言い訳が通用するとでも、」



「本当に、本当に分からないんです。これが僕の偽らざる本音なんです。

 僕は、自分の気持ちを、ミクの気持ちを、

 どう整理して、どう応えるべきなのかわからないんです……」





そして星登は、己の内にずっと封じこめてきた苦悩と悔恨を解きはなった。

痛みも、苦しみも、何もかもをひっくるめて、ただがむしゃらにぶつけてみせた。


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月九日[7]へ

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