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初音ミクSS「君の心は、そこにある」第五章~涕涙~

正徳二十年(西暦二〇〇八年)八月九日(土)[7]



「僕は……、僕は、確かにミクに惹かれてました。

 毎日を朗らかな笑顔で彩ってくれるミクの表情も、

 いつもたおやかに隣で佇んでくれているミクの優しさも、嘘をつくことが苦手で、

 本音をすぐ顔に出してしまうミクの恥じらいも……、

 何もかも、本当に何もかもが愛おしくて、愛らしくて、

 僕の心ははっきりとした安らぎに満たされていました。

 ……だけど、だからこそ、僕は不安でならなかったんです」





真夏の陽差しが容赦なく降り注ぐ中、文代は星登の独白を黙って聞いている。

じっとしているだけでも汗ばんでくる陽気のなか、時折吹く風が二人の肌を仄かに涼めてくれた。



「新聞では日々アンドロイドの在り方について記事が書かれ、

 職場でもアンドロイドに入れ込んでいる異常者として陰口をたたかれて……、

 そうして、ふと考えてしまったんです。

 ミクの『ココロ』は、本当に存在するのだろうかって」





星登の声音はもはや呻きにも似ていた。

それもそのはず、この独白はかつて苦痛に喘いだ心を、

むりやり搾るようにしてひりだしているのだから。



「一度ミクの『ココロ』に疑問を抱いてしまったら、あとはもう止まりませんでした。

 彼女の『ココロ』はただのプログラムではないのか。

 僕は『ただのプログラム』に強い愛着を抱いてるだけなのではないか。

 自分はおもちゃに恋愛感情を抱いてしまっている異常者なのではないか。

 心も感情も持たないロボットの行動に一喜一憂する、哀れな道化に過ぎないのではないか……。

 そんな不安が、ずっと僕の中にあったんです」





星登は何も見ていなかった。

ただ己の胸中を見つめていた。

痛悔と懊悩に塗れた心を見据えて、

そして懺悔とも憤怒とも言える壮絶な絶叫をあげてみせた。



「僕はミクに惹かれながら、だけどミクの心を信じ切れなくて、

 だからミクに惹かれる自分の心を凍り付かせるしかなかったんです! 

 それでも家に帰ってミクと過ごせば、ただそれだけで僕の心はざわついて、

 ミクへの愛しさがひたすら湧き出てきて……! 

 ミクを愛してはいけない、彼女はアンドロイドなんだと言い聞かせても、

 僕の心はずっとミクを見つめ続けていました! 

 だけど、それでも、僕は僕自身の心を受け入れられなくて、

 どうしようもなくて、家から遠ざかるようにする他なかったんです……!」





星登がそこまで言うと、おもむろに文代が口を開いた。



「なるほど、ね……」





文代はため息をつきつつも、しかし溜飲が下がったような面持ちで、ゆったりと言葉を紡ぐ。



「緒方さんはミクちゃんに『ココロ』があるかどうかわからなくて、

 だから自分の気持ちもミクちゃんの気持ちも信じられなくなって、

 それから逃げていたっていうのかい?」





星登は己の優柔不断な行動を指摘されて強烈な慚愧に襲われるものの、はっきりと肯定した。



「それじゃあ、私から質問させてもらうよ。私には心があると思うかい?」



「は、はい。そりゃあもちろん……」



「犬や猫にも心はあるかい?」



「それは、あると思います」



「それでは植物には? ここにある花には心はあると思うかい?」



「ない……いや、ある、と思います。何となくですけど……」



「それじゃあ生まれたばかりの赤ちゃんには?」



「ある、と思います」



「じゃあまだお母さんのお腹にいる赤ちゃんは?」



「ある……んじゃないですかね。

 胎児はお母さんの呼びかけに応えることがあるって聞きますし……」



「それなら頭の中の、脳にあたる部分ができる前の赤ちゃんには?」



「それは……わかりません」



「おや、それはどうしてだい?」



「だって、脳にあたる部分がないのであれば、

 赤ちゃんはまだものを考えることができませんし、

  そうなると心があると言って良いのかどうか、ちょっとわからなくなってしまいますね……」



「でも緒方さんはさっき、植物には心があるって言ったろう?

 植物にはものを考える頭はないよ?」



「それは……」


初音ミクSS「君の心は、そこにある」八月九日[8]へ


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