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それは一人の女性が繋いでいく奇跡の物語「詩羽のいる街」

詩羽のいる街 (角川文庫)詩羽のいる街 (角川文庫)
(2011/11/25)
山本 弘

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山本弘の詩羽のいる街を読んだ。面白かった。

これは、奇跡の物語だ。
作中ではヒロインの詩羽は
「自分がやっていることは論理的な行動に過ぎない」と述べているが、
これは間違いなく奇跡の物語であり、
彼女にしか為し得ない素晴らしい行動と結果の物語なのだ。

ある日新作の執筆に悩むマンガ家志望の青年は、
己のマンガをどのように書くべきか悩んでいた。
担当編集を納得させ、
自分を殺してでも"売れるマンガ"を目指すことこそが正しい道なのか、
それとも己の描きたい物こそ書き続けていくことがあるべき姿なのかを悩んでいた。
悶々としたものを抱えたまま、スケッチをとるため気まぐれに立ち寄った公園のなかで、
青年はある不思議な光景を目にする。

5人の小学生たちが購入したカードの交換会をしている。
だが子供たちが欲しいカード、
あるいはいらないカードというのはそれぞれが全く異なる。
1対1だけでの交換だけでは皆が望むカードを入手することはできそうにない。
そこで活躍するのが詩羽だ。
彼女は子供たちのいらないカード、欲しいカードをすべて把握し、
また交換するならどのカード何枚分とであれば交換に応じるという
特殊カードの交換条件についても理解し、
1対1での交換だけでなく、三角関係でのカード交換、
あるいは四角や遂には五角関係でのカード交換まで成立して見せ、
そこにいた子供たち全員を納得させるカード交換会を実現してみせたのだ。

カード交換に満足した子供たちは、
やがて青年のもとへやってきて「カードのイラストを描いて欲しい」とせがむ。
望まれるまま幾枚かのイラストを描いてあげたところで、
詩羽が青年に近づき、そして告げる。
「ねえ、私とデートしない?」
ここから、詩羽という女性によって紡がれる奇跡の物語が始まる。

詩羽は言う。
「良い人はみんな幸せにならなければならない」と。
「善良なのに不幸なのは納得がいかない」と。
だから詩羽は自分の力によって不幸になってしまってる人に手を差し伸べ、告げるのだ。
「デートをしよう」と。
そして「私があなたを助けてあげる」と。
人々は決して彼女自身の力によって救われるわけではない。
彼女は手を差し伸べ、機会を用意してやるだけだ。
彼女はただ、一歩を踏み出すことのできない人々の背中を押してやって、
人と人との繋がりをエスコートしてあげているだけなのだ。

しかし、たったそれだけのことができない人がどれだけ多いことか。
そしてそれを演出してもらえるだけで、
一歩を踏み出す勇気を得て、己の才能を開花させ、
幸福というかけがえのない財産を得られる人の何と多いことか。

詩羽はあくまで論理的に動いたに過ぎないという。
実際に行動したのはその人自身だし、
私はその後押しをしてあげたに過ぎないという。
だが彼女と関わった人々はそのように考えたりはしない。

自分たちは詩羽によって救われたのだと。
詩羽と出会うことによって変わることができたのだと。
詩羽が導いてくれなければ、今でも自分は狭い部屋、
狭い世界の中で悶々としていたに違いない、と。
詩羽に導かれた人々は異口同音に告げることだろう。

才能や技術、仕事を必要とする人。
そして、それを提供できる能力を持ち合わせている人。
だがこの二人を結びつけるものはなにもない。
どちらか一方が新聞などに求人や広告をうてば解決できることかもしれないが、
個人レベルではそこまでの労力とコストをかけてまで行動しようという人はいない。

だが詩羽は違う。
彼らは"互いを知らない"という最も簡単で、
しかしもっとも越えることが難しいハードルを前に諦めていた彼らを、
詩羽は華麗に、見事に人と人とを結び、繋げ、かつ新しい価値を創出していく。
それが積み重なって、人々を救い、街を救い、皆が幸福になっていく中で、
詩羽はぽつりと呟くのだ。
たったひとつ。たったひとつだけ辛いと思えることを。
そのことは決して作品全体を貫くテーマにはなっていないし、
詩羽自身も深刻に受け止めているわけではない。
だが詩羽自身が抱えるその悩みもひっくるめて、
彼女自身が幸福を掴める日が来るのだと、その幸せをこの街でこそ掴んで欲しいと、
そう願わずにいられなく読後感を味わわせてくれた。

この本は本当に素晴らしい良書でありました。
2012年に出会えた本の中で最高の作品だ。
本当におすすめです。是非ご一読を。
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