中田永一の「くちびるに歌を」を読んだ。面白かった。
これは九州地方の離島に住む中学生たちが合唱部を通じて成長するという青春群像劇だ。
この物語に登場する少年少女たちはいずれも等身大の子供たちで、
それぞれに悩みを抱え、葛藤を抱え、自身のなかである種の諦めにも似た達観すら抱いている少年もいる。
そんな彼らが作中でしたためるのは、15年後の自分に宛てた手紙だ。
作中では各登場人物たちのモノローグと共に、手紙の片鱗が明かされていく。
彼らは何を思い、何を憂い、そして何を決意していったのか。
中学生でありながら、いや、中学生であるからこそ、
"進路"という初めて経験する人生の岐路に懊悩する。
島の中の高校に通う者、島を離れる者、東京へ行くと野心を燃やす者、
そして島から一歩も出る事は無いだろうと透き通るような諦観で己の将来を見据える者。
彼らはそれぞれの想いを胸に秘めて、
ひたすらに合唱に打ち込み、ときに衝突して、ときに素直になれず、
それでも最後には互いに心を通わせて、弾けるような色彩に溢れた合唱を展開させるのだ。
特にラストシーンにおける合唱は圧巻だ。
そこには様々な思いが飛び交っていた。
照れくささ、皆に受け入れられた喜び、たった一つの想いを受け入れられなかったほろ苦い哀しみ。
悲喜こもごもの想いを乗せて届けられる合唱は、その想いに答えるようにして、
たったひとつの、しかしかけがえのない贈り物を返礼されるのだ。
それは、ただの偶然に過ぎないのかもしれない。
しかし偶然に過ぎなかったのだとしても、それこそが合唱という煌めいた贈り物への返礼なのだと、
そう信じたい。
この小説は、強烈な感動に打ち震えるわけでもなければ、
手に汗握る壮大な物語が展開されるわけでもない。
しかし中学生という時代を過ごした人であれば、
この小説を読んだ後には、このような時代が自分にも合ったのだと懐かしく振り返らせてくれるに違いない。
映画スウィングガールズやウォーターボーイズのような青春群像劇が好みの方には
自信を持っておすすめできる逸品でございました。
是非ご一読を。
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