スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

魅音SS「変わらぬ想い」 #01/15

1989年6月18日 午前9時 圭一



目を覚ますと、そこには見慣れぬ天井があった。
霞む目を凝らしながら、顔だけを動かして部屋を見渡す。
本棚にキチンと並べられたコミック。
同様に整然と並べられたボードゲームたち。
そして、壁の一角を占領しているモデルガンの数々。

ああ、間違いない。ここは魅音の自室だ。
魅音の部屋には何度か遊びに来たことがある。
ここでレナたちと夜遅くまでゲームに興じ、深い屈辱を伴う罰ゲームに泣かされ、それでもみんな、腹の底から笑っていた。

俺が雛見沢を離れて東京の大学に通い始めてから、1年余り。
しかし一年過ぎようと十年過ぎようと、きっと俺はここで過ごした仲間との時間を忘れはしない。

それはまるで灯火のような、穏やかで、暖かくて、でもこれ以上ないくらいに眩しかった日々。
木漏れ日のように柔らかい数々の思い出は、仲間とか友情とか、そんな言葉に対して斜な見方しか出来なかった自分に、言葉以上の重みと、人生を賭けてでも守りたいと思える存在があることを教えてくれた。

カーテンによって細く枠切られた朝日が、ちょうど自分の胸元を暖めている。
木々の息吹をふんだんに吸った風が窓から差し込まれ、少し寝汗をかいた体を心地よく冷ましてくれた。

大きく息を吸って、吐く。
それだけで一旦は覚めかけた意識が、また朦朧と眠りへ誘われようとしていた。
微睡の欲求に身を任せ、そのまま静かに瞼を閉じようとしたとき。
ようやく、ある事実に気づいた。

なぜ、自分は魅音の部屋で朝を迎えているのだ?

途端に意識が鮮明さを取り戻す。
昨日は、綿流し祭り当日だった。
綿流し祭りだったからこそ、俺は雛見沢に一時帰省してきたのだ。
そして毎年恒例の梨花ちゃんの演舞をみんなで観賞した後、なぜか村の老人たちに呼び止められたんだ。

前原さんちの倅(せがれ)が久しぶりに雛見沢に帰ってきたんだ。
せっかくだからお前やレナちゃんのために後夜祭を開いてやる、ついて来い。

そう言ってくれて、そのまま魅音の家へ移動した。
ここまでは覚えている。

そこで俺は、薦められるままにビールや日本酒を次々と空けていったんだ。
途中からレナが飲みすぎだよ、と窘めてくれていた気がするが、そんな忠告を無視してコップを空けていって、それで・・・


「う、う~ん・・・・」
「う、うわああっ!」

驚きのあまり、ベッドから転がり落ちる。
そんな大げさな、と思うヤツは実際に経験してみると良い。
何の前触れもなく、耳元から、それも吐息が耳にかかってしまうほどの近距離から声が聞こえてきたら、どんな反応をしてしまうか。

「どうしたの圭ちゃん、朝から元気だね~・・・」

むくりと上半身を起こし、背筋をうーん、と伸ばしながら魅音がノンキにのたまう。
自然、胸を張る形になるために、魅音の豊かな胸が寝巻き代わりのシャツの下から強調されて、一瞬彼女の胸元に視線を集中させてしまう。
幸運だったのは、魅音自身が俺のその視線に気づいていなかったこと、そして現状を理解できぬ戸惑いのあまり、俺の股間が何の反応も示さずにいてくれたことだった。


「ど、どどど、どう・・・!」
「何だい圭ちゃん、言いたいことがあるならハッキリ言いなよ」
「どうして、魅音がこんなところで寝てるんだよ!」

状況を理解できずに慌てふためく俺とは対称的に、魅音は実に落ち着き払い、むしろキョトンと顔を傾げながら語りかけてくる。

「圭ちゃん、昨夜の事、覚えてないの・・・?」

うつむき加減に、多少声のトーンを落としながらの問いかけ。
俺は霧がかかったように朧げな自身の記憶を探りながら、なんとか昨夜の行動をトレースしようと試みる。

「昨夜は、確か村の爺さんたちに誘われて、ずっと飲み会に出席してた・・・はず」
「そうそう、その飲み会の後のことだよ」

急かすように語り掛ける魅音。

「そんな・・・本当に圭ちゃん覚えてないの・・・?」

魅音の悲壮感漂うその表情に、俺は多少の戸惑いを隠しきれなかったのだろう。

「・・・なぁ、魅音、俺、昨夜何かしたのか・・・?」
「ひどい・・・!ひどいよ圭ちゃん・・・!」

瞬間、両手で顔を覆い、涙で声を濡らし、嗚咽に肩を震わせる魅音。

「私、圭ちゃんだから・・・圭ちゃんだから許したのに・・・!他の人には、絶対にあんなことしないのに!」

魅音のその絶叫も、昨夜の記憶が無い俺にとって、ただ混乱を誘う言葉の群でしかない。

「じゃぁ、圭ちゃん・・・昨夜のあの言葉も忘れてしまったの・・・?」
「あの・・・言葉・・・?」

俺だって子供じゃない。
こういう取り乱し方をする魅音に対して、昨夜どんな出来事があったのかを予想できないわけじゃない。
でも、相手がまさかあの魅音だなんて全く考えてなかったし、そもそも昨夜のことを全然覚えていない時点で、魅音に対しての誠意とかなんとか・・・あぁもう、俺は何を言ってるんだ!?

「圭ちゃん・・・私、凄く嬉しかったんだよ・・・?」
「・・・な、何がだよ・・・?」

我ながら、あまりにも馬鹿げた回答だとは思う。
でも自分のとった行動が自分の記憶に無いことほど恐ろしいものは無い。
同じ経験をした人ならば、俺のこの道化のようなやり取りも、きっと理解はしてくれることだろう。

「圭ちゃん、私のこと愛してるって・・・何回も何回も耳元で囁いてくれたのに・・・あの言葉も嘘だったって言うの!?」

もう、何がなんだかわからない。
頭の中はすっかり真っ白になってしまって、冷静に情報を整理する余裕すら奪われていた。
夢なら覚めて欲しい。
それが嘘偽らざる本音だ。

未だ魅音は顔を両手で覆っていて、時々しゃくりあげる肩だけが彼女の動きの全てだった。
ここで取るべき行動が考え至らず、魅音に語りかける言葉も見つからず、そして未だ昨夜の行動に確信を得ることすらできない俺は、ただ冷や汗を浮かべながらその場で道化を演じることしかできなかった。

「・・・プッ」

それは、息を吹きだした音。
まるで笑いをこらえきれず、意図せずして出してしまった呼吸音のような。

「・・・おい、魅音」

俺はいくらか冷静さを取り戻し、魅音の名を呼ぶ。
もう魅音は肩を震わせていない。ただ黙って顔を両手で覆っているだけだ。
この時点で、俺はさきほどの「まるで」と表現した事象が、そのまま事実であることを確信した。
それと同時に、先ほどまでの己の狼狽ぶりが鮮明に思い返され、恥ずかしさのあまり、熱を帯びてしまうほどに顔を真っ赤に染めてしまっていることが自分でわかった。

「・・・プッ、プハハ、ハハハハハハハハッ!」

そして堰を切ったように笑い転がる魅音。
お腹を抱えて、布団をバンバンと叩きながら、溢れ出る笑いを堪えようともせずに、遠慮なしに笑い転げている。
そんな魅音を前にして、俺はただ無遠慮な笑い方に対して不満を持っているかのように振舞うことしかできなかった。

「・・・ったく、人が悪すぎだぞ魅音。昨夜のことを何も覚えていないからってからかいやがって」
「ハハハハハ!ア~ッハハハッハハハハ!」
「ていうかお前笑いすぎだ!いい加減にしろ!」
「ハハハ・・・あ~あ、ゴメンゴメン圭ちゃん、いやぁ、あまりにも圭ちゃんの反応が面白すぎるもんだからさぁ!」

悪びれることなく告げる魅音。
そっと指の端で目元をこする彼女の仕草は、涙が出るほどに楽しんだということの証に他ならない。
・・・まったく、魅音のやつめ。
あの頃と何も変わっていやしないじゃないか。

そう、あの頃。
魅音がまだ、俺たちと同じ雛見沢分校に通っていたあの頃。
学校が終われば「部活」と称した大騒ぎが始まり、教室や校庭、ときには山や川も遊びの舞台としてしまう魅音の発想力と行動力に、ただただ振り回されっぱなしだった。
例えそれが休日でも、そして勿論放課後でも、あの頃ほど「退屈」という二文字と無縁だった時間は他に無い。
そんな、ただその日を充分に楽しむことだけに注力できた、あの頃。
俺の目の前にいる魅音は、まさにあの頃の魅音そのままだった。

「・・・相変わらずだな、魅音は」

変わってしまったものへの懐古をその一言で振り切ろうとしたが、無駄だった。
胸の表面に押し上げられてくる痛みを隠し切れず、俺はその後の言葉を紡ぐことができない。
そしてそのまま沈黙の重石に潰されてしまう直前、魅音が先に動いてくれた。

「どうしたんだい圭ちゃん、そんなにおじさんにからかわれたのが悔しいのかい?」

魅音がベッドの上から、俺の頭をクシャクシャとかきまぜてくる。

「ば、馬鹿野郎!俺はそんなに器の小さい人間じゃねぇよ!」

俺は半ば照れ隠しの意味も含めながら、その魅音の手を振り払う。
でもその振り払う手には拒絶の意味なんて少しも含めなかったし、魅音もそれは理解しているはずだ。
だから俺の態度に対し、魅音はクスリと笑みを返す。
そして俺は魅音に対し、ニヤリと不敵な笑みを返すのだ。
たったこれだけ。
ただこれだけのやり取りが、俺たちの気遣いの形だった。
そう、ただそれだけのやり取りが。

「さ~て、それじゃぁそろそろ朝ごはんにしますか!」

そういって勢いよくベッドから起き上がる魅音。

「圭ちゃんも食べていくでしょ?朝ごはん」
「おう、勿論だぜ!今ならすぐ部活が始まったとしても、優勝をかっさらえるくらいに腹ペコだ!」
「へへ~?まぁその意気込みは買うけれど、もうちょっと遠慮って言葉を覚えた方が良いよ、なんたって圭ちゃんはただの食客だしね」

そんな軽口を叩きながら、魅音が部屋を出て行く。

「朝ごはんできるまで、そこの洗面所で顔でも洗ってなよ~」

廊下の向こうから、魅音の声が小さく響く。
未だ彼女の部屋でたたずむ俺は、おう、と一つ大きな声で返した。

風に揺られるカーテンが、俺の肩を優しく撫でる。
そのむず痒さに耐え切れず、俺はカーテンをひっつかんで、思い切り両側に開けてやった。
シャッ、と小気味いい音を出しながらカーテンは引っ込み、代わりに鮮やかな原色の風景が双眸に飛び込んできた。
真っ青な空、白い雲、緑色の山々と、その境界を織り成す稜線。
カーテンを開け放った窓に映るのは、ただそれだけで一つの完成品と言える絵画だった。

まだ昼には遠いというのに、太陽の光は窓際に佇む俺の肌を容赦なく照りつける。

「・・・変わらないものだって、あるよな」

あの頃と何ら変わらぬ夏を迎え、あの頃と変わらぬ木々の匂いを胸に吸い込みながら、誰に言うでもなく、ただそう呟いていた。



ひぐらしのなく頃にSS
園崎魅音編
「変わらぬ想い」



テーブルの上に並べられたメニューは、夏野菜のサラダとベーコンエッグ、そして薄茶色に焦げ目をつけられたトーストだった。

「圭ちゃん、コーヒーは砂糖とミルクを入れる?」
「あぁ、ブラックで良いよ。それにしても意外だよな」
「ん?何が?」
「魅音の家って外観が純和風だからさ、朝飯は和食派なんだって、勝手に思ってた」

魅音は淹れたてのコーヒーを満たしたマグカップを手にしながら、ハハハ、と苦笑しながら答えた。

「婆っちゃは確かにご飯党だったよ。でもホラ、婆っちゃがいなくなってからさ、何となくパン党になっちゃってね」

俺は、ああ、そうなのか、と気の利かない返事しか返すことができなかった。
魅音の婆さん、お魎婆さんは、俺が高校3年の夏に亡くなっていた。
年数を数えてみると、あれから2年が過ぎたことになる。

詩音はお魎婆さんのことを鬼婆なんて呼んでいたが、俺が知る限り、お魎婆さんほど子供好きで、お人よしで、優しい婆さんを他に知らなかった。
村の老人たちからは尊敬と畏怖の念をこめて「雛見沢にお魎あり」なんて呼ばれていたらしいが、そんな姿は婆さんの一側面でしかないことを、俺たちは知っていた。
婆さんは、自分ひとりでは起き上がることも難しいほど衰弱していたのに、お彼岸ともなるとおはぎを作っては子供たちに配って、美味しそうにおはぎを頬張る子供たちを本当に楽しそうに眺めていたものだ。
レナや魅音も婆さんにおはぎの作り方を教わっていたらしく、俺が季節外れの風邪で寝込んでしまったときには、「お見舞い」と称して二人が作ったおはぎを持ってきてくれたこともあった。
もっとも、魅音が作ったおはぎにはタバスコがたっぷりと入っていて、死ぬような思いも味あわされたのだが・・・。

カリカリ、カリカリとトーストにマーガリンを塗る。
焦げ目の上に透明の光沢を張られたトーストをかじると、表面のサクリとした食感の後に、もちもちとした柔らかいパンの香りが口中を満たした。
マーガリンの風味と温かいトーストの香りが、空腹を訴える胃袋を優しく癒してくれる。
二口目、三口目とトーストにかじりつき、ドレッシングで味付けされたサラダを口に運んで、それらをコーヒーで胃に流し込む。
俺の家では朝は和食派だったから、こういう洋風の朝食は物珍しくて、次々とメニューを平らげてしまった。

そんな俺とは対称的に、魅音は自分の皿に手をつけず、ただ俺の食事の様子をじっと眺めていた。

「ん?どうしたんだよ?」

口の中のトーストをコーヒーで流し込んでから、俺は魅音に尋ねた。
魅音は皿の上のプチトマトをひょい、と口に運んでから、

「ううん、ただ、圭ちゃんのお母さんの気持ちがわかるなぁ、て。思っただけ」

そう答えた。

「もっと食べる?今からパン焼こうか?」

あっという間に食べつくしてしまった俺の皿を見て、魅音はそう申し出てくれる。
確かに、正直まだ物足りない。
だけど、

「いや、いいよ。さすがに悪いしな」

そう言って辞退した。

もう朝食を終えてしまった俺に対し、魅音はまだ半分も食べきっていない。
手持ち無沙汰となってしまった俺は、自分が使った食器くらいは片付けようかとも思ったが、魅音がまだ食事を終えていないのに席を立つのは不躾だと思い直し、結局魅音が食事を終えるまで、ただボンヤリと彼女を眺めていた。

カップに残ったコーヒーを少しずつ口につけていると、風がわずかに頬を撫ぜていくのに気づいた。
さすが古風な日本家屋なだけあって、この家は窓や襖を開け放つだけで、外からの健やかな風が室内で舞い踊る。
そんなそよ風に混ざりながら、風に揺られる木の葉の鳴き声が、僅かに耳元をくすぐった。

室内を舞う風が、食事を終えて僅かに火照った体を柔らかく包み込む。
俺は風に身を任せながら、いまだ空けぬカップのコーヒーに口をつけていく。
魅音のフォークが皿と触れ合い立てられる硬質音と、それに時折含まれる木々の声に耳を傾ると、それだけで脳裏に微睡が訪れ、抗いがたい魅惑と共にその場で伏せたくなってしまう。

木々の声と、山のカラスの鳴き声、そして時折含まれる子供たちの遊ぶ声を耳にしながら、俺は重い瞼をこじ開けることに専念していた、その時。

ボーン、ボーン、と、居間に置かれた柱時計が、大きな時報を響かせた。

思いもよらぬ突然の音響に、眠気などすっかりと飛んでいく。
そんな俺の驚く様子が面白かったのだろう、魅音はクスクスと笑みを零している。
俺は照れ隠しに、カップに残った僅かなコーヒーをいっきに飲み干した。

見ると、魅音はまだ朝食を終えていない。
いや、終えていないどころか、完全に食事を進める手が止まっている。
ただ物憂げに、フォークの先でベーコンを突付いているだけだ。

「・・・どうしたんだよ、魅音?」

尋ねるが、魅音は視線をフォークの先から動かさない。
ベーコンエッグを弄びながら、魅音はホロリと言葉を漏らした。

「圭ちゃんさぁ、・・・レナとはうまくいっているの?」
「ん?ああ、まぁ、そこそこに、な」

そっか、と魅音は一言だけ呟くと、細かく分割されてしまったベーコンを少しずつ口へ運び始めた。

そよ風が室内を軽やかに舞う。
照りつける強い日差しも室内までは届かず、柔らかな照明となって魅音の姿を映している。

「私さ、」

不意に、魅音が言葉を紡ぐ。
視線はいまだフォークに固められていたが、ハッキリと告げた。

「圭ちゃんのこと、好きだよ」


魅音SS「変わらぬ想い」 #02/15へ


関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

oplij

A5aMVi <a href="http://vdrzqavhjfxg.com/">vdrzqavhjfxg</a>, [url=http://xymncxmtdgaq.com/]xymncxmtdgaq[/url], [link=http://nzgk

J, http://quickloanszippy.com quick loans, 03030,

J, http://quickloanszippy.com quick loans, 03030,
プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。