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魅音SS「変わらぬ想い」 #02/15

1988年1月30日 魅音


「私さ、圭ちゃんのこと、好きなんだ」

私がそれを告げたのは、雪が降りしきる1月の夜だった。
窓の外では、白い欠片が夜の闇に降り注ぎ、音も無くその身を地面に委ねていく。
外はきっと刺すような寒さなのだろうけど、私とレナは暖房の効いた部屋の中、パジャマ一枚という薄着で過ごしていた。
私が布団の上で、レナはベッドの上。
パジャマに着替えた後のおしゃべりは、それが私たちの定位置になっていた。

突拍子の無い告白にも関わらず、レナはまっすぐ受け止めてくれている。
言った本人である私の方が、気恥ずかしさのあまりうつむいてしまったのに。
ハハハ、と照れ隠しの笑いを零しながら、その後に続ける言葉を捜してみるものの、どんな言葉もその場にはふさわしくない気がして、何となくそのまま黙り込んでしまった。

程なくして、レナがそっと呟く。

「そっか、魅ぃちゃん、圭一くんのこと、好きだったんだ」

レナは優しく、柔らかく、私の胸中の告白を受け止めてくれた。
それはまるで、昼の日差しのような、包み込む暖かさで。

レナは、私の気持ちを初めて知ったような口ぶりだけど、多分それは違う。
レナはきっと、私のこの気持ちにずっと前から気がついていた。
彼女は人が人に向ける気持ちに対しては、凄く聡い子だから。
だから私の気持ちに気づくのは勿論、私が自分で告白しない限りは知らないフリを通してくれる。

そんな彼女の優しさに、私は甘えっぱなしだった。
婆っちゃが夏に死んで以来、あの広い屋敷で一人となってしまった私は、週末ともなるとレナの家に泊まりに来ることが多くなっていた。
婆っちゃがいない寂しさと喪失感に、私は耐えられなかったのだ。
寒い闇の中で一人眠るのは、寂しくて、悲しくて、どうしても人恋しくなってしまう。

勿論、昼間はそんな弱音なんて誰にも吐かない。
だけど、週末の夜だけは、こうしてレナの優しさに甘えずにいられない。
大学の共通一次試験を終えて、もうすぐ本試験を控えているというのに、私が泊まりに来ることに対して、一言も文句を言わずにいてくれる。
都合のいいときにだけ友人を利用するなんて、と自虐的に考えたりすることも多々あった。
でもそうやって自責の念を抱いたところで、この寂寥の想いが消えることもない。
そんな板ばさみの思考に決着をつけることもできないまま、今夜もレナの家に泊めさせてもらっていた。

「私、応援してるよ!魅ぃちゃんの恋がうまくいくように!」

レナはとびっきりの笑顔で、そう言ってくれた。
あぁ、良かった。勇気を出してレナに相談して、本当に良かった。

圭ちゃんはもう、あと数ヶ月もしないうちに高校を卒業してしまう。
ただでさえ園崎家当主としての仕事が私を拘束する中で、圭ちゃんと過ごすことの出来る時間はあまりにも限られていた。
しかも、もし圭ちゃんが志望大学に合格すれば、彼は東京へ引っ越してしまい、余計に会うことが難しくなってしまう。

だから、そうなる前に。
まだ私たちが雛見沢にいるうちに、みんなと同じ時間を共有できるうちに、私は圭ちゃんとの思い出を作っておきたかった。

コォォォ、というファンヒーターの声が空気を鳴らす。
私は想いを告白した照れ隠しに、手元の枕を抱いたり、指先でいじったりしながら誤魔化していた。

「ねぇねぇ聞かせて!魅ぃちゃんは、圭一くんのどんなところが好きになったのか!」

レナは女の子特有の好奇心を交えながら、笑顔で尋ねてくる。
私はところどころつっかえながら、照れくささを隠し切れずに、少しずつ語った。

圭ちゃんのどこが好きか、なんて、正直自分でもわからない。
デリカシーはないし、大声でしゃべるし、「紳士」という言葉からは遠くかけ離れた印象しか持てない。
だけど、そんな男の子だけど、私は彼と一緒にいるだけで凄く満たされた気分になれるのだ。

例えば、圭ちゃんの姿が見えないと、無意識に彼の姿を探してしまう。
例えば、圭ちゃんと会話ができれば「今日も圭ちゃんと笑い合うことができた」と、幸せな気分になれる。

そんな、なんでもない幸福。
他の男の子には絶対に抱くことの無い、小さな幸福。
それが私の、圭ちゃんに対して抱く好意の形だった。

いつからそんな感情を抱くようになったかなんて、覚えていない。
初めて会ったときからそうだったか、と言われればそんな気もするし、そうでない気もする。
むしろ、恋にきっかけというものがあるかどうかすら、私にはわからない。
でも、少なくとも私にとっての恋は、圭ちゃんと一緒に過ごすことで、少しずつ、でも確実に、大きく育まれてきた恋だった。

そんな自分の中に芽生えた感情をはっきりと意識し始めた瞬間だけは、いまでも覚えている。

それは、今から4年前のこと。
圭ちゃんが雛見沢へ引っ越して来て間もない、綿流し祭りを目前に控えた部活でのこと。
叔父のおもちゃ屋で部活をさせてもらったとき、叔父はお駄賃という名目で、みんなに人形を配っていた。
それは小さなフリルが散りばめられた、腕にスッポリと収められるくらいの、ビスクドール。

人形をもらって無邪気に喜ぶ沙都子と梨花ちゃん。
夢心地のようなレナと、少し困り顔を浮かべる圭ちゃん。
でも、そこに私がもらえる人形はなかった。
叔父曰く、
「親族は店を手伝って当然!お前の分の人形はない!」
という理由で。

概ねその通りであると、理解はしていた。
普段から叔父のお店を手伝って、たまに小遣いまでもらっている立場の私は、事実上この店の店員のようなものだ。
そんな私が人形をもらえるわけもない。

だけど、それでも。
零れるような笑顔で人形を手にするレナたちを見ていると、私はその輪に入ることの出来ない疎外感と、一抹の寂しさを抱いてしまった。
・・・いや、もっと素直になろう。
単刀直入に言うと、私は、あの人形が欲しかったのだ。
叔父が気前よく配るくらいの人形だから、それは決して高価な品物ではない。
だけど、私なんかが手にしても不釣合いなほどに少女趣味なデザインだったけど、私はその人形を手にして、抱きしめたい衝動に駆られたのだ。

そんな私の羨望の眼差しに気づいたのだろうか。
圭ちゃんは静かに私に近づいてきて、

「ほら魅音、これやるよ」

そう言って、圭ちゃんは自分の人形を私に無造作に渡してくれた。


「・・・あれさ、私、本当に嬉しかったんだ」


心の底から漏れ出たその呟きは、少しの吐息と入り混じっていた。
清流のように際限なく湧き出てくる想いを全て告白するには、私の語彙力はあまりにも乏しい。
言葉として吐き出すことも出来ず、溜まる一方の胸の痛みを、私は枕を両腕で抱きしめて、キュッと力を込めることでやり過ごす。

レナは、私の独演会とも言える一人語りに、ずっと付き合ってくれていた。
本当は照れくさいのに、自分の本心をさらけ出すなんて凄く恥ずかしいのに、言葉は後から後から溢れ出てくる。
きっと、これが恋なんだ。
凄く恥ずかしいのに、自分の心を明かさずにいられない、この衝動。
圭ちゃんの優しさ、カッコよさについて話すときの、独特のむず痒さ。
この胸の痛みも、このむず痒さも、全てひっくるめて私の幸福感をいっぱいに満たしてくれる。

この想いを一人で抱いているときは、こんな幸福感を味わうことなどなかった。
胸中で眠るこの痛みは、日を追うごとに膨れ上がってきて、ただ根拠の無い焦燥感となって襲い掛かっていた。

圭ちゃんは、私をどう思っているのだろう。
みんなは、圭ちゃんのことをどう思っているのだろう。
私なんかが、みんなよりも魅力的だと言えるのだろうか。

でも、いまは違う。
そんな不安や焦燥よりも、レナとの対話で生まれた安堵の方が、この胸の中いっぱいに広がっていた。

「ねぇねぇ魅ぃちゃん、それでさ!」

レナは好奇心をいっぱいに満たした表情で、身を乗り出して私に問いかけてくる。

「圭一くんには、いつ告白するの?」

瞬間、顔が沸騰したかのように急激に熱を帯びたのを感じた。

「こ、こここ告白ぅっ!?」

思わず声が裏返る。
告白なんて大それたこと、現実的な問題として考えたこともなかったために、自分でも恥ずかしいくらい取り乱してしまった。

「そう、告白!やっぱりバレンタインのときにするの?」

確かに、今日で1月も終わり。
2月のバレンタインは再来週になる。

「こ、告白なんてそんなこと、私はしなくて良いよぉ・・・」

弱気な私の発言に、レナはあからさまに不満の表情を浮かべる。

「どうして?告白しないと、何も始まらないよ?」

それは確かに、レナの言うとおりだ。
どれほど強い想いを抱いていようと、どれほど相手に誠実であろうとも、気持ちを伝えなければそれは何も意味が無い。
だけど私は、今の関係が充分気に入っている。
圭ちゃんがいて、レナがいて、私がいる。
いつもふざけ合うけれど、それでもお互いを心から信頼して、そしてお腹の底から笑い合える関係。

「私はさ、今のままでも良いんじゃないかな、て・・・そう思うんだよね」

私は枕を胸に抱きながら、呟くように心情を吐露した。
ちらりとレナの表情を盗み見ると、彼女は真摯なまなざしで私を見つめ続けている。
・・・やはり、敵わない。

「ううん、ごめん。今の理由は本当の理由じゃないね。せいぜい3割くらい」

私は観念して、本当の気持ちを語ることにした。

「私さ・・・怖いんだよね、もしも告白したときに、圭ちゃんに嫌われたらどうしようかな・・・なんて」

そう、それが嘘偽らぬ、私の本当の気持ち。
それはきっと、恋をした人ならば誰もが抱く弱気。
今の関係が心地よい分、私はその弱気から想起される結果を、たまらなく恐れてしまっている。

残り少ない時間を、圭ちゃんが東京へ行ってしまうまでのこの期間を、沢山の思い出を作るために使いたい。
そのためには、私のこの気持ちを伝えなければならない。
しかし「気持ちを伝える」という行為に対しては、今の「心地よい関係」を代償としなければならない。

わかっている。
自分がいかに弱い人間であるか、わかっている。
圭ちゃんとの関係に変化を望みながらも、都合の良い部分では変わって欲しくないと願う、この身勝手。
この自己保身の塊とも言える甘さを捨てきれない限り、告白などという大胆な行動に移ることは、到底できそうになかった。

レナも、私の心境を理解してくれている。
そして私の持つ、一歩を踏み出せない弱さも。

そんなレナが、ひとつのアイデアを提案してくれた。

「それじゃぁさ、プレゼントを頑張ろうよ!」

レナは正に最上のアイデアを得たと言わんばかりに、表情を笑顔のそれで満たしている。
対して私は、レナの提案に少々言葉が足りなかったこともあり、彼女が意図していることを汲むことが出来ずにいた。

「だからさ、バレンタインの日に、チョコレートだけじゃなくて、別のプレゼントも用意すれば良いんだよ!」

唖然としている私の表情を見て、レナが少しずつ言葉を補ってくれる。

確かにバレンタインには、毎年私たちはチョコレートをプレゼントしていた。
ただしそれは圭ちゃんに対してだけでなく、部活メンバー全員に対して、だったけど。
みんなそれぞれにチョコレートを用意して、全員にプレゼントを渡す。
女の子が女の子にチョコを渡すなんて、最初のうちはむず痒かったけど、レナと梨花ちゃんがとても楽しそうだったから、何となく私もそれにならってしまった。

「バレンタインのときに、プレゼントも一緒に渡す・・・ってこと?」

おずおずとレナの顔色を伺いながら尋ねてみる。
レナはそうだよ、と元気一杯に答えてくれた。

「・・・で、でもなぁ・・・」

手持ち無沙汰となり、またレナの視線から逃れることも叶わず、私は視線を胸元の枕へ落とすことしかできなかった。
圭ちゃんへの告白。
全く夢見てこなかったと言えば、嘘になる。
むしろ、告白というマイルストーンを経なければ、圭ちゃんとの関係を新しく作れないことは、重々承知しているつもりだ。
でもそのためには、新しい関係を築くためには、今の圭ちゃんとの関係を壊す覚悟も同時にしなければならない。

未だ迷いを捨てきれぬ私に、レナはバレンタインのときに特別なプレゼントを渡して、告白すれば良いと言う。
確かに、プレゼントを渡す勇気を出せれば、あとは勢いで言葉を紡ぎ出せるかもしれない。
そのプレゼントに心を込めてあればあるほど、いくら鈍感な圭ちゃんでも、私が何を言わんとするか勘付くはずだ。
そうすれば、告白するための空気も自然に作りやすくなる。

だけど。
確かにレナの提案は魅力的だけれども・・・。

未だ煮え切らない私に、レナは優しく、語りかける。

「ねぇ魅ぃちゃん、世の中にはね、二種類の人間がいると思うの」

それはまるで、母親が娘を諭すかのよう。
聞くものすべてを、素直で、従順な子供に戻してしまう、そんな不思議な魅力に満ちた語りかけ。
レナは表情に温かさを湛えながら、そっと説いてくる。

「・・・それはね、『できることを探す人』と『できない理由を探す人』。
 魅ぃちゃんは、どっちかな・・・かな?」

その言葉は、私の心の核心を抉るようだった。
確かに私は、いつでも逃げていた。
今の圭ちゃんとの関係を壊したくない、でも圭ちゃんがいなくなってしまう現実を黙って見過ごせない。
そのジレンマを自ら打破する努力をせず、今の時間を面白おかしく、ただ平和に過ごしているだけ。

今の圭ちゃんとの関係が、迷った末に選択した結果であるならば、それはそれで仕方ないと言えるかもしれない。
でも、現実は違う。
ただ問題を先送りにした結果、今の状況に繋がっているに過ぎない。

レナは私の迷いを眼前に突きつけてくれた。
そして、私が選ぶ選択肢の一端を手助けする、とも申し出てくれている。
私はここで、選択すべきなのかもしれない。
友人の助力と後押しをもらいながら、ほんの一歩だけ前進する勇気を出して。

「・・・うん、そうだね、レナの言うとおりだ」

私は、ほぅ、と息を一つ吐いて、言葉を紡ぐ。

「私、バレンタインで圭ちゃんにプレゼントを贈るよ。
 それで、そのときに圭ちゃんに私の気持ちを伝えるんだ」

まるで私の不安を包み込むかのように、レナは優しい眼差しを向けてくれている。
それは春の息吹のような、ほっと心まで温めてくれるかのような柔らかさを伴いながら。

それからも、私たちの会話は終わらなかった。
話題が尽きることなく、飽くこともなく、笑いが絶えることもなく、笑顔が涸れることもなく。
優しく降り積もる雪のように、レナとの絆が私の胸を満たし続けていた。


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