スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

魅音SS「変わらぬ想い」 #03/15

1988年2月10日 魅音



「それでは魅音さん、私はこれで」
「うん、おやすみ、葛西」
自宅まで送ってくれた葛西を玄関で見送る。
葛西は、今夜のように興宮で会合が開かれた日は、いつもこうして車で送ってくれていた。

葛西が運転するベンツは静かに滑り出し、そのまま闇の向こうへ走っていく。
テールランプの残像が消えるのを見届け、エンジン音も聞こえなくなってから、ようやく寒気が痛みを伴って感じられた。
いそいそと玄関をくぐり、自室へと向かう。
闇の部屋でパチンとスイッチを入れれば、部屋を占領していた闇が人工の白色光によって払われた。

部屋の中だというのに、私の口から出る息は白いままだ。
ファンヒーターのスイッチを入れるものの、この部屋を充分に暖めるまでにはしばらく時間がかかるだろう。
しかしそれよりも私を凍えさせるのは、静寂に包まれた屋敷で感じる孤独感だった。
闇に包まれた屋敷、しんと静まり返る自室。

私はいまだに、この空気に慣れる事ができずにいた。
会合の賑やかな空気に包まれた後であれば尚更のこと、この屋敷において「独り」であるという事実を強く意識してしまう。
こんな日にはシャワーだけを軽く浴びて、何もせずにベッドに潜りこんでしまうのが常であった。
だけど、今は違う。

私は、机の上に視線を向けた。
そこに置かれているのは、薄いベージュ色の手作りマフラー。
レナと相談して、圭ちゃんへ贈るために作ってきた、何よりも大切なマフラー。
圭ちゃんに喜んでもらいたくて、圭ちゃんに受け取ってもらいたくて。
その一心で作り上げたこのマフラー。

私はそっと、マフラーを手にとってみる。
ヒヤリとした触感はほんの束の間で、手に収めているうち、次第に温かくなってきた。
いまだ冷え切った自室の中で、マフラーから手を離さぬまま、私は思いに耽る。

圭ちゃんは、このプレゼントを喜んでくれるだろうか?
いや、そもそも受け取ってくれるのだろうか?
そんな想念が脳裏をよぎる。
バレンタインが近づけば近づくほど、私の弱気はぐいと首をもたげてくるのだ。
そういえばどこかの雑誌で、男性が苦手とするプレゼントの中に「手作りのプレゼント」というものが入っていた気がする。
その雑誌によれば、想いが強ければ強いほど、そのプレゼントは男性にとって重荷になってしまうらしいのだ。

ああ、どうしようどうしよう!
やはり手作りのマフラーなんか止めて、無難な既製品を選んでおけば良かったのだろうか!
でも今からプレゼントを選びなおす時間の余裕なんてありはしない!
だって今日はもう火曜日。
今年のバレンタインは土曜日だから、猶予は実質あと3日しかない。
それにプレゼントを選ぶ時間だってそれほどあるわけではない。
葛西に頼めば、お昼のちょっとした時間などにお店へ連れて行ってもらえるかもしれないけど、それだってかなりの制約が入ってしまうし、何よりもゆっくり選んでいる時間などあるわけがない。

いやいやいやいや、それよりも問題なのは、このプレゼントをいつ渡そうかということだ。
『・・・だけど、用意しても渡せるタイミングがわからないし・・・』
『そんなの、私が何とかしてあげる!』
あの日のレナとの会話が想起されるが、不安を拭い去ることなどできるはずもない。
特に最近は沙都子も色恋沙汰に興味が出てきたのか、しきりに私の恋路についてちょっかいを出してくる始末だ。

「ホラホラ、圭一さんが来ますわよ、声をかけなくて良いんですの?」
「えぇっ!?ど、どどどうして圭ちゃんが来ることが私に関係してるのさ!?」
ひとつ、大きなため息をつく沙都子。
「んもぉっ、そんなことだと、レナさんに圭一さんを取られてしまいますわよ?」
「よ、余計なお世話だよ!」

終始こんな調子だ。
・・・我ながら情けないとは思う。
年下の沙都子にまで恋愛の心配をされてしまうのだから。

スゥ、とひとつ大きく息を吸って、吐く。
それでようやく、覚悟を決めた。
バレンタインデーに、圭ちゃんにこの気持ちを伝えよう。
もともとそのために編んだマフラーだ。
この日にプレゼントし、この日に告白しないで、何に用いようと言うのだ。

そう覚悟を決めても、心の中でそう決心しても、やはり弱い心を完全に拭い去ることはできない。
手編みのマフラーを気持ち悪がられたら?
告白を受け入れられなかったら?
そんな弱気に、私は「でも」を繋げることにする。

でも、私は想いを伝えたい。
今の圭ちゃんとの関係も素敵だけど、でもそれ以上に私は、圭ちゃんとの思い出を深めていきたい。

マフラーを胸に抱く。
私はもうすぐ訪れる2月14日に向けて、想いを馳せずにはいられなかった。


魅音SS「変わらぬ想い」 #04/15

関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

缶のTwitterアカウント

缶のpixivアカウント

オススメ!

最新記事
リンク
ブログ内検索
カテゴリー
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。