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魅音SS「変わらぬ想い」 #07/15

1988年2月13日 午後8時15分 魅音



「お前・・・何だか、怖ぇよ・・・」

瞬間、全身の血液が凍ったような気がした。
気温はこれ以上下がりようもないはずなのに、まるで温度という概念が意味を成さなくなったかのように、体中の温感が現実味を持たなくなった。

圭ちゃんは自身の失言にハッとして、慌てて口をつぐむ素振りを見せる。

だけど、もう遅い。
だって、圭ちゃんが心に沈めていた本音は、私に届いてしまったから。
圭ちゃんの言葉は耳を切り裂き、鼓膜を突き破り、脳をぐしゃぐしゃにかき混ぜる。
寒さなんて気にならない。
針のような雪の冷たさも、刃のような風の冷たさも、既にズタズタに切り裂かれた私にとっては何の意味も持たないから。

・・・どうして?

最初に心に浮かんだのは、疑問符。

私はこんなに圭ちゃんのことが好きなのに、どうして?
私はこんなに圭ちゃんのために尽くしてあげられるのに、どうして?

自身の想いを受け入れられないことが、私には受け入れがたかった。
圭ちゃんのためならどんな事も厭わない。
そんな強い想いを受け入れられないことが、理解できなかった。
強く想えば、固く信じていれば、きっとどんな想いも相手に届くと信じていただけに。

「・・・み、魅音・・・」

私はどれほど悲痛な表情をしていたのだろうか。
圭ちゃんが私に触れようと、手を伸ばしてくる。

「ひっ!」

瞬間的にたじろぎ、思わず身を引いてしまう。
手を中途半端に差し出した状態の圭ちゃんと、たじろいだまま姿勢を後ろに乗せている私。
二人とも、しばしそのままの状態で固まってしまった。

だからだろうか。
そうしてある程度の物理的距離を置くことができたから。
私は、ほんの少しの冷静さを心に宿し、そして。
圭ちゃんの目を見ることができた。
だから、気づいてしまった。
なまじ中途半端な冷静さなどを取り戻してしまったからこそ、気づいてしまった。

圭ちゃんがその目に宿らせていたもの。
それは、哀れみだった。
そこには、先ほど言葉に乗せた恐怖の意思など、微塵も無い。
ただそこにあるのは、ここまで私が追い詰められたということに対する、同情と哀れみ。
これほどのことをしてしまった。
ここまでのことをせずにはいられなかった。
そんな私の苦渋を、選択せざるを得なかった苦悩を。
圭ちゃんはただ、哀れみの目で、私の心を貫いていた。

「・・・いや、いや・・・」

喉元に綿を詰められたような息苦しさの中で、ようやく私はそれだけを口に出せた。

苦しい。
喉が。
痛い。
胸が。
寒い。
心が。

お願い・・・お願いだから・・・

それは言葉にならない。
私の必死の懇願は、空気を震わせることも出来ぬまま、ただ胸元を反響するだけだった。

代わりに、顔をフルフルと左右に振る。
力なく、ようやく左右に振る。
それだけで、体のどこかから絞られたのだろう。
眦(まなじり)に、うっすらと涙の膜が張るのを感じた。

お願いだから・・・

唇だけが、言葉を紡ごうとする。
喉も、声帯も、壊れたラジオのようにかすれた音しか出せないというのに。

一歩、後ずさる。
砂利を食む音と雪を食む音が重なり合う。
もう一歩、後ずさる。
重なるほど近かった二人の距離が、遠ざかる。
さらに、後ずさる。
互いの体温が届かぬ距離を、冬の風だけが埋めていく。

そして私は、絶叫した。
音にならぬ絶叫を。
唇が形だけなぞった、しかし心からの絶叫。

そんな目で、私を見ないで!


最後のプライドさえもかなぐり捨てて挑んだ告白を、無残に散らされた屈辱。
もう、立っていられない。
もう、その場に一刹那ほども存在していられない。

だから私は、圭ちゃんの何かしらの呼びかけに応じる余裕も無く、ただひたすらその場から逃げ出した。
雪が頬に刺さり、風が両手を縛り付ける。
雪に足を取られて転びそうになるけど、そんなことに構っていられない。
ただひたすら、私はその場から逃げ出すために、両足を全力で前に押し出していたのだ。

だからそれは、ただの偶然だった。
無意識に走り出した方向が、レナの家の方向だったことは。


魅音SS「変わらぬ想い」 #08/15

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