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魅音SS「変わらぬ想い」 #10/15

1988年3月19日




一ヵ月後。

空は精練されたかのように鮮やかな青で彩られている。
空と大地の境界を織り成す稜線は、未だ雪の白でコーティングされている。
山肌にところどころ覗くこげ茶の土が、春の訪れを今か今かと待ちわびるように主張を始めるが、山裾を吹きぬく風の冷たさが、未だ雛見沢から冬が抜けきらないことを示していた。
暦は立春と言いながら、雛見沢の春はまだ遠い。
興宮に唯一存在する駅のホームに立ちながら、圭一は風の冷たさを味わっていた。

あれから、一ヶ月。
魅音と最後に邂逅したあの雪の夜から、一ヶ月余りが過ぎている。
無事、東京の志望大学に合格した圭一は、早速部屋探しのために東京へ赴くことにした。

しかし部屋探しのためだけに東京と雛見沢を往復するのは、時間も金銭的にも勿体無い。
そこで昨日までに引越しの準備は全て終わらせてしまい、今日から部屋探しのために東京へ赴き、そして部屋探しから入居までの期間は東京の実家で過ごす事にした。
部屋さえ決まってしまえば、後は新居に荷物を運び込むだけである。
自室に置きっぱなしの荷物の手配は、雛見沢の両親が行ってくれる予定だった。

つまり。
圭一が「村民」として雛見沢の土を踏むのは、今日が最後ということになる。
通常よりも一足早く雛見沢を後にする圭一のために、沢山の仲間が駅のホームまで見送りに来てくれた。

「圭一さん、東京のお水にはお気をつけなさいませ?
 東京は雛見沢と違って、簡単にお水が飲めるわけではございませんのよ?
 水道水は必ず沸騰させてから飲むこと!
 お腹を壊してスンスン泣いても、誰も看病できないんですからね?」

「ああ、わかったよ沙都子。水には気をつける。飯も気をつける。賞味期限を過ぎた食料は潔く捨てる!これで良いだろ?」

「何を言いますの!
 そもそも食べ物を、賞味期限が過ぎるまで放っておいてはいけませんわ!
 賞味期限が迫ってきたら、何を差し置いてでも全部お食べつくしなさいませ!」

沙都子が、まるで手のかかる弟を嗜めるように小言を言う。
それに合わせて、圭一も出来の悪い兄貴を演じるのだ。
いつもは強がっていても、仲間内で一番寂しがり屋の沙都子。
沙都子の瞳を、うっすらと涙の膜が張っている事に圭一は気づいていたが、それには敢えて触れずにおく。
今はただ、出来の悪い兄を演じていれば良い。
それで沙都子の気が済むのであれば、それで良い。

「圭一、東京でも元気でいて下さいね。寂しくてみーみー泣いたら、かわいそかわいそしに行ってあげますです」

「ありがとう梨花ちゃん。でも心配には及ばないぜ!
 眠らない街・新宿!流行の先端・原宿!夢と希望渦巻くあの東京で、俺は寂しさに震えている余裕などないのだ!」

「あぅあぅあぅ。駄目ですよ圭一。あんな人がいっぱいいて怖い所へ行ってはいけないのです。私がずっと見張ってるのです!」

「え、ええ?羽入が俺を、ずっと?
 ハハハ、それじゃぁ確かに悪いことは何もできないな!」

そう言って圭一は軽快に笑い、羽入の頭をワシワシと撫でた。
しかし圭一は知らない。
実際、圭一が東京へ一時的に帰省したとき、ずっと羽入が後ろを着いていったことを。
そのときは圭一が雛見沢症候群を発症してしまい、羽入が圭一に対して謝罪し続けていたのだが、それは別の世界の話だ。

他にも、沢山の人が圭一のために激励の言葉を贈ってくれた。
監督が、富竹が、富田や岡村が、村長の公由までもが、圭一のためにここへ集まってくれた。
皆、異口同音に激励し、鼓吹し、鼓舞した。

「・・・圭一くん」

そして、遠慮がちに名前を口にしたのは、レナだった。
レナも圭一と同じ大学に合格し、4月からは同じキャンパスで学ぶことになる。
本来であれば、レナも圭一と同様、新居を探すために東京へ赴かなければならぬ身である。
しかしレナは時間の許す限り雛見沢に滞在し、部屋探しは東京のホテルに宿泊しながら行う予定だ。
圭一が、部屋探しの期間くらい俺の実家に泊まっていけば良いと提案したが、レナはそれを最後まで断り続けた。
その生真面目さが、何ともレナらしい。

「私も、後から追いかけるからね」

「あぁ、一足先に行って待ってるからな」

絡み合う視線。
触れ合う眼差し。
二人の表情に浮かぶ微笑みは、ある種の信頼関係である。
色恋沙汰に聡い梨花や羽入、そして色恋沙汰に疎い沙都子ですら、この二人の間に流れる空気の親密さが、以前と少し変化していることを感じ取っていた。
監督や富竹は、うら若き少年たちの甘い春の訪れを、眩しそうに見守っている。
そして富田や岡村は、いつか自分もと、羨ましそうに圭一たちを見つめる。

そして、もし。
ここに魅音がいたならば、きっと冷やかされたに違いないのに。
圭一は、そう心に呟いた。

今ここに、魅音はいない。
圭一が雛見沢を去る今日という日にも、魅音が圭一の前に姿を現すことはなかった。
あれから一ヶ月。
この一ヶ月の間、圭一は結局、一度たりとも魅音と相見える事はなかった。

魅音の家を訪れても。
自室で窓に小石がぶつかるのを待っていても。
魅音の姿を見ることは叶わなかった。

圭一の願い。
それはただ一つ、魅音に会うことだった。
魅音に会って、謝りたい。
ただただ、謝りたい。

魅音の想いを、無碍にしてしまった事。
魅音の勇気を、砕いてしまった事。
魅音の心を、深く傷つけてしまった事。

あの夜、圭一が無意識に紡いでしまった、あまりにも不用意な一言。
それは魅音の身を焼き、心を焦がし、取り返しの付かぬ闇へと叩き落した。
零れてしまった水を元に戻すことができないように、圭一の言葉も取り消すことはできない。

だから、謝りたい。
それで全てを無かった事にすることはできないけど。
あの頃のように笑いあうことはできないかもしれないけど。
それでも、謝りたい。

ただの偽善だ。
罪悪の炎に炙られる夜をいくつも越えながら、圭一の心に囁かれる言葉。
謝って、魅音に謝罪して、それでどうなるのだ。
圭一は、レナを選んだ。
圭一は、魅音を選ばなかった。
圭一は、恐ろしい言葉で魅音を拒絶した。

もう戻れはしない。
戻れるわけがない。
部活に興じていたあの頃。
ただただ日々が楽しくて、腹の底から笑って、仲間を無条件に信頼しきっていたあの頃。
幸せというものを目に見える形で具現化したようなあの日々に、戻れるわけがない。

そんなこと、わかっていた。
そんなこと、イヤというほど理解していた。

ならば。
その上で魅音に謝って、何が変わると言うのだ。
レナに告白した過去を変えることなど出来はしない。
レナを選んだ己の心を欺くことなど出来はしない。
魅音を選ばなかった自分が、結果魅音を傷つけた自分が、彼女にどのような言葉をかけるというのだ。
どんな言葉も、空虚に響く。
どんな言葉も、虚ろに浮かぶ。
だから、どんな言葉も、魅音との関係を修復するには力不足だ。

だからこそ用意した、その不足を補うために用意した、リュックの中で佇む包み。
その包みが開かれることは、遂に無かった。

幾ばくかの寂寥を胸に抱き、静かに風の音を聴いていたとき。
ふいに、レールから鳴る重い響きが耳を叩いた。
電車の到来をホームのベルよりも先に知った圭一は、皆との別れも共に近づいてきたことを感じた。
皆の表情が、静かに硬くなる。

皆も気づいていた。
その場にいる誰もが気づいていた。
気づかないわけがなかった。
圭一たちにとって、最高の親友が不在であることに。

電車がホームに訪れても、やはり彼女は姿を見せない。
あの特徴的だった長い髪を翻すことなく。
周りの者を巻き込むような快活とした笑顔を振りまくこともなく。
その場の沈うつとした空気を払うこともできぬまま、電車だけがホームに訪れた。

・・・やはり、来ないか。

圭一は、諦念と共にため息をついた。
そうしてから、自分の期待が自意識過剰とも言える思い上がりであったことに気づき、自嘲気味に笑う。
その自虐的な笑みとともに零れた吐息のせいで、心が少し軽くなった気がした。

「それじゃぁ、みんな、」

行ってきます、と続けようとしたところで。
圭一は視界の隅に、猛スピードで駅の改札口へ突っ込んでくるベンツを見た。
車体が傾くほどの急ブレーキをかけられ、タイヤが甲高い悲鳴を上げる。
そして後部座席から押し出されるように出てきたのは。

「魅音!」

思わず、叫んでしまった。
切符も通さずに改札を走り抜ける魅音。
その彼女を駅員が呼び止めようとするが、同じベンツから飛び出てきた詩音と葛西が何とかなだめる。

息せき切って走る魅音の髪は、未だ短いままだ。
魅音が髪を切ったのは、彼女が大きな迷いを抱いていたから。
短くなった髪が示しているのは、彼女が負いきれない程の不安と不信を抱いていたこと。

頼りなく左右に触れる短い髪は、やはりあの頃の魅音とは程遠いけど。
まっすぐ圭一を見据えるその瞳は、圭一が良く知る魅音のそれだった。

「圭ちゃん!」

改札から圭一が立つホームまで全力で走ってきた魅音。
胸元に紙包みを抱えて、圭一の元へ駆け寄った魅音が最初に紡いだ言葉。

「・・・ゴメンね」

修飾語も何も無い、ただの謝罪の言葉。

「困らせちゃって、ゴメン」

繰り返し、紡ぐ。
やはりその言葉にも補語は無かったけど。
だけど、だからこそ、その言葉には万感の想いが乗せられていた。

「いや、謝るのは俺の方なんだ」

圭一が、魅音の目を見ながら、ずっと言いたかった言葉を紡ぐ。

「俺の方こそ、ゴメン。
 あの言葉で、お前を凄く傷つけてしまったこと、本当に後悔してる。
 だから謝らせてくれ、本当にすまなかった」

「やめてよ圭ちゃん!
 私が悪かったんだ。
 私が意固地になってたから、圭ちゃんを怖がらせちゃっただけ。
 圭ちゃんは何も悪くないよ」

「何言ってんだ。
 例えどんな状況だったにせよ、魅音を傷つけてしまったことに変わりはない!
 いくらなんでも、魅音をあんな風に言うことはなかったんだ!
 悪かったのは俺の方だ」

二人が二人とも、「自分が悪い」と言って譲らない。
そんな幼稚じみた言い合いを何度か繰り返すうち、ようやく二人は自分たちの会話の不毛さに気づいた。
どちらからともなく、笑みが零れ出る。
それは清流のような透明感で、湧き水のように自然な笑みだった。

「へへへ、それじゃぁ私たち、お互い様だね」

顔を上げた圭一が見た魅音の表情。
それは、とても柔らかな表情だった。
まるで春の木漏れ日のような、ただそこにいてくれるだけで心安らぐような、そんな柔らかさ。

「私は、圭ちゃんのこと許してあげる。
 もう綺麗さっぱり。
 何も残らないくらい。
 だからさ、圭ちゃんも、私のこと許してくれる?」

「あ、当たり前だ!
 むしろ俺の方こそ『許す』なんて偉そうなこと言えない立場なんだ!
 魅音が許してくれるなら、俺は何だって許してやるよ!」

「圭ちゃん、何だか言ってることがメチャクチャだよ」

そう言いながら、魅音は優しく笑顔を零す。
それは今まで見たことが無い、とても優しい笑顔。
圭一も、レナも、梨花も、沙都子も、誰も見たことのない、魅音の安らかな笑顔。
きっと飾らない笑顔というのは、今の魅音の表情のことを言うのだ。

『快活な友人』としての笑顔ではない。
『女の子として見られたい』という必死の演技が生んだ笑顔でもない。
ただ、園崎魅音という一人の女性が零した、何の不純物も紛れない笑顔。

そうして、しばし懐かしい時間を楽しんでいたとき。
電車がホームに止まり、扉が開かれた。
もう、別れのときは近い。

「じゃぁ俺、行くな」

圭一が、そっと車両に足を踏み入れる。

圭一は車両の上、魅音はホームの上。
今はまだ二人を遮る壁は無いけど、もうすぐここに扉が立ち塞がる。
紡ぐ事のできる言葉は少なくなり、許された時間も残り僅かだ。

「圭ちゃん、その・・・コレ」

遠慮がちに言いながら、魅音が胸元の紙包みから取り出した物。
それは、マフラーだった。
薄いベージュ色の、手作りマフラー。
魅音が己の想いを伝えようと、バレンタインの日に渡そうと思って、ただ一途な想いを乗せて編んだマフラー。
魅音はそのマフラーを、そっと圭一の首に巻いてあげた。

「東京はここよりも北にあるからさ、寒いといけないでしょ?
 ちゃんとこれを巻いて、しっかり頑張ってきなよ」

魅音は照れ隠しに、そんな言い訳じみた言葉を贈った。

東京が雛見沢よりも寒いことなど、ありえない。
そして、豪雪地帯である雛見沢でさえも、もはやマフラーを巻く時節とは言えない。
そんなことは魅音を含め、誰もが承知していた。

だけどその場にいる誰も、その矛盾をついたりはしなかった。
そんな無粋な人間は、この場には一人とていなかった。
だから圭一も、ただ素直にマフラーを首に巻いて、

「ありがとう魅音。このマフラー、大事にするぜ」

そんな、感謝の言葉を贈るのだ。

ふいに、柔らかい風が二人の頬を撫ぜる。
それはまだ冬の冷たさを滲ませていたけど。
二人はその風の柔らかさに、どこか春の香りを感じていた。

青空から注がれる無垢な日差しが二人を照らす。
冬の凛とした空気と、立春の和やかな日差しが織り成す、自然の恵み。
そんな、温かく包み込むような陽光の恵みにより、二人の心に張っていた僅かな氷が溶けた頃。
圭一は、己が用意していたある包みの存在を思い出した。

「そうだ魅音、これ!」

少し慌てる様子で、リュックの中から包みを取り出す。

「これ、お前にやるよ」

そう言って無造作に、魅音に包みを差し出す。

「え、これ、なに?」

戸惑いを隠しきれない魅音。
全く予想していなかっただけに、咄嗟に何を言えば良いのかすら把握しかねていた。

「良いから、開けてみろって」

そう促す。
言われるがまま素直に包みを受け取って、魅音はその包みを開けてみた。
そこに表れたのは。

「・・・わぁ・・・」

ただ零れ出るため息。
圭一の贈り物を確認した魅音の口から零れ出る、心の吐息。

それは、カチューシャだった。
何の彩も無い、しかしキラキラと微かに光を反射させる、真っ白なカチューシャ。

「お詫び、というには余りに打算的だけどさ。
 魅音の髪には、その白いカチューシャが似合うと思って」

圭一の言葉が、何度も何度も魅音の胸の中で木霊した。
カチューシャを手に取り、そっと指でなぞって、その感触を、その存在を、指で覚えようとする。
ため息が止まらない。
洩れ出るため息を止められない。
次に繋ぐべき言葉を思い出すことも出来ぬまま、魅音は圭一からの贈り物を愛で続けていた。

贈り物そのものは、大したことは無い。
むしろ、この短くなってしまった髪に対して、贈り物にカチューシャを選ぶセンスの無さに呆れてしまう。
それに成人を迎える魅音へ、今更カチューシャを贈るとは何という幼稚さだ。

だけど。

魅音の心は、満たされていた。
どこまでもどこまでも、柔らかい温もりが魅音の胸を包み込んでいた。
圭一の心遣いが嬉しくて。
その不器用な優しさが本当に嬉しくて。
今にも溢れ出そうな涙をグッと堪えながら、魅音はこのプレゼントを胸に抱く。

思い出されるのは、数年前のあの出来事。
魅音が圭一への想いを自覚した、あの出来事。

あのときも圭一は、ビスクドールを無造作に差し出してくれた。
それが嬉しくて。
本当に嬉しくて。
自分を女の子として見てくれたことが、そして人形を他ならぬ自分へ差し出してくれたことが。
本当に、心から嬉しかった。

なのにあの頃の自分は、素直に言えなかった。
照れくさくて、自分のことを「おじさん」と自虐的に呼び捨てながら、素直に言えなかったのだ。
たった一言、『ありがとう』の一言を。

あの時素直に言うことが出来たならば。
ただ一言、素直に感謝の言葉を贈ることが出来たならば。
もう少し違う『現在』を過ごすことが出来たのかもしれない。
素直で可愛い、レナのような『女の子』として、圭一の隣で笑っていられたのかもしれない。

だけど、自分はそうしなかった。
ただ照れくささの余り、素直な言葉を紡ぐことができなかった。
それは紛れも無い真実。
今更取り戻すことの出来ない過去。

だから、せめて。
今だけは素直になろう。
この抑えきれぬ感情を、この上ない喜びを、想い人である圭一に贈ろう。

今更素直になったところで、何も変わりはしないだろう。
圭一はレナを選び、レナはそれを受け入れた。
二人の間に、私が入る隙間はもう無い。

だけど、今だけは素直になろう。
何かが変わることを期待するのではなく、ただ自分自身のために。
この気持ちを、最高の気持ちを、彼に伝えるのだ。

「・・・ありがとう、圭ちゃん。ずっとずっと、大切にするよ」

言葉を終えるのを待っていたかのように、けたたましいベルが二人の耳をつんざく。
もう、二人は言葉を交わさない。
ただ互いの表情を確認し合うだけだ。

そしてベルが鳴り終わり、電車の扉が閉まるまでの、僅かな隙間の中で。

「またな、魅音」

それが、二人を繋ぐ最後の言葉となった。
扉は閉まり、やがて電車がゆっくりと進み始める。
そして圭一の姿が見えなくなり、電車が見えなくなるまで、魅音はそこに佇み続けた。
圭一に相見えるまでの逡巡。
圭一に謝るまでの躊躇。
それらの躊躇(ためら)いを振り切るまでに必要とした時間を取り戻すかのように、いつまでも圭一が消えた空間を見つめ続けていた。

「・・・魅ぃちゃん」

背中から、親友が声をかけてくる。
魅音はゆっくりと振り向き、親友の姿を確認する。

「おめでとう、レナ」

それは、二人の関係を祝福する言葉。
自分の恋が終わり、想い人と親友が新たな関係を構築したことを、受け入れた言葉。
呟いた言葉は、魅音自身が驚くほど、穏やかに紡ぎ出された。
妬みや嫉妬を僅かほども含まない、と言えば嘘になる。
だけど今だけは、圭一とレナの関係を素直に祝福しよう。
そう思えたからこそ、出た言葉だった。

その言霊を受け入れたレナは。
嬉しそうな、だけど泣きそうな表情を浮かべて。

「ありがとう、ありがとう、魅ぃちゃん」

感謝の言葉を、ただただ繋いでいく。
その声は今にも涙に濡れそうで、その頬は今にもくしゃくしゃに泣き崩れそうだった。
だから、魅音は。

「・・・ぷっ、くく、ははははは!」

笑った。
最初は遠慮がちに、でもすぐに大きな声で、笑ってやった。
もう私たちを隔てる壁も、妬みに燃える炎も存在しない。
圭一とのことはもう過去のこと。
思い切り笑い飛ばせる程度の、過去の出来事。
だから私は笑っていられる。
こうして、お腹を抱えて、笑っていられる。
そう言わんばかりに、思い切り、遠慮なしに笑ってやった。

それにつられて、レナも大きな声で笑い出す。
お腹を抱えて、目には涙を浮かべながら。
二人で思い切り笑いあった。

二人の笑い声が、高い高い空の青へ溶け込んでいく。
快活な空はどこまでも青く、荘厳な山はいまだ白い雪に覆われたまま。
木々が緑で彩られるにはまだ時間がかかりそうだったけど、二人の頬を暖める陽光だけは、春の香りを微かに含んでいた。


魅音SS「変わらぬ想い」 #11/15

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