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魅音SS「変わらぬ想い」 #11/15

1989年5月 魅音





それから、一年余りが過ぎた。

暦は5月を迎え、新緑の風が心地よい季節となった。
レナと圭ちゃんは東京の大学で学問に励み、私は雛見沢で園崎家頭首としての仕事に追われている。
そして沙都子や梨花ちゃん、羽入たちは苦しく苦い受験勉強を乗り越えて、この春から興宮の高校へ通い始めた。

梨花ちゃんと羽入は、高校に通いながら古手家の巫女としての勉強と修行に励んでいる。
祝詞(のりと)や祭事の厳しい取り決まりを隅から隅まで理解・暗記しなければならない巫女の仕事は、かなり骨の折れるものだと言える。
しかしそんな難解で厳格な仕事も、梨花ちゃんと羽入は互いに力を合わせて学び、乗り切っているようだった。

沙都子は高校で新しく入部した部活(なんとソフトボール部!)で、早くもエースとして活躍している。
入部時に遠投やバッティングのテストが行われたときには、沙都子の並外れた記録に部員は勿論、監督まで目を丸くしていたらしい。
5月の連休中には他校との練習試合が組まれ、それには早速沙都子がスターティングメンバーとして組み込まれたのだ。
その試合には梨花ちゃんや羽入は勿論、私も強引に予定を空けて観戦しに行った。
結果、沙都子は4打席1四球3安打の大活躍!
試合には負けてしまったけど、沙都子の今後の活躍を期待させてくれる、素晴らしい試合だった。

ちなみに。
この日に休みをねじこむことで葛西には相当迷惑をかけてしまった。
だから後日、お詫びに駅前の美味しいシュークリームを差し入れてあげたのだけど、葛西は相当喜んでくれたみたいだった。
「そのようなお気遣いは不要です」
なんて言いながら、その嬉しさを表情から隠し切れていない辺り、すごく可愛らしい。
そんな無骨で不器用なあたりが葛西らしいのだけど。

そして、レナと圭ちゃんは。
東京の大学で、立派に勉学に励んでいる。
レナとは今でも電話でよく話をするけど、そんなレナの話を総合すると。
圭ちゃんは、学部の教授に大変気に入られてしまったらしい。
まだ一年生だというのに、すでに教授の研究室へと入り浸っているという。
つまり、昼間は通常科目の履修をして、夕方からはずっと実験を手伝うというライフサイクルなのだ。
一年生のうちからこのような待遇を受けることは、極めて稀なこと。
それだけ教授は圭ちゃんの才能を高く買っており、類稀な才能を伸ばすために英才教育を施しているのだろう。

しかしそんな熱のこもった英才教育の副産物として、圭ちゃんは休日を返上してレポートを書かなければいけないらしい。
課題は盆も正月も関係なく与えられ続け、その結果。
昨年、圭ちゃんが雛見沢に帰ってくることはなかった。

レナだけは正月に帰ってきたから、久しぶりに二人で夜通し話をしたりできたけど。
それでも、かつての部活メンバー全員が顔を合わせる、ということはついにできなかった。

つまり、それが何を表すのかと言えば。
私は昨年の春以降、圭ちゃんに一度たりと顔を合わせていなかったのだ。

だから久々に圭ちゃんとレナが二人で雛見沢に帰郷するという報せを聞いたときは、小躍りするくらいに喜んでしまった。

実験やレポートの処理にようやく一段落ついて、6月頃には一度帰ってくることが出来るという。
しかもそれが、ちょうど綿流し祭りに合わせて帰郷することができるというのだ。

ふいに、あの頃の記憶が甦ってくる。
みんなで部活に興じ、思い切り祭りを楽しんでいたあの頃の記憶。
レナや圭ちゃんとも、何のわだかまりも抱かずに、ただただ純粋に笑っていられたあの頃。

もう一度、あの頃のように笑いあえるだろうか。

一度は短く切ってしまったこの髪も、もう今は背中まで伸びている。
だから。
今の自分は、あの頃と何も変わらない。
齢こそ成人を迎えてしまったものの、それ以外の部分はあの頃と何も変わりはしない。
この家も。
この名も。
この髪も。
そして、この気持ちも。

いまだ圭ちゃんへの気持ちを吹っ切れずにいる自分の女々しさに嫌気が刺すけど。
それでも自分の気持ちを抑えて、みんなで笑って過ごせる程には大人になれた。

だから、またあの頃と同じ時間を過ごしたい。
あの頃と同じように、みんなと笑い合いたい。
大人気なく、はしゃいで。
子供のように、大笑いして。
恋の悩みに胸を焦がすことなく。
親友への妬みに心を焦がすことなく。
ただただ、あの頃のように心から笑いたい。

圭ちゃんへの想いは、もう届かない。
圭ちゃんへの恋慕は、もう実らない。
だからこそ。
祭りの間だけは、祭りの間くらいは。
想いを寄せる人と、心から楽しめる時間を過ごしたい。

そう願うことは、我侭なのだろうか。
そう願うことは、罪なのだろうか。

胸にしこりのようなわだかまりを僅かに残しながら。
それでも、私は圭ちゃんの帰郷を心待ちにせずにはいられなかった。


魅音SS「変わらぬ想い」 #12/15

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