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有川浩「図書館戦争」感想

有川浩の「図書館戦争」を読んだ。面白かった。

メディア良化法という、
政府による言論弾圧が合法化されてしまった架空の日本を舞台に、
表現の自由、資料収集・閲覧の自由を守るため、
図書館が中心となってメディア良化委員会と日夜戦いを繰り広げる、という物語。

うん、今回も本当に荒唐無稽な設定ですよね。
人間が塩になったり空に楕円が浮かんでたり海からエビが出てきたりと、
有川氏の小説ではファンタジーギリギリのトンデモ設定を物語の根幹に置きますが、
今回の設定は一見すると今までの設定には若干見劣りしますけど、
それでもその十二分にぶっ飛んだ設定だよなぁという印象を抱いてしまったオイラを誰が責められようか。

だってさ。図書館が軍隊ですよ。
いくら規制法が厳しいとはいえ、軍隊ですよ。
確かに規制や検閲は非常に厳しく、理不尽かもしれません。
だけど、その検閲に対抗するために、
わざわざ軍隊まで持ち出してくる必要があるのか、と。
流石にそれは大袈裟でしょう、と。

そう思っていた時期が俺にもありました。

いやね。
実際に読み進めていくと分かるんですよ。
ここで書かれていることは、決して荒唐無稽ではないということに。
参考までに作中で出てくる言葉をここで引用いたしますと、

本を焼く国は、いずれ人を焼く。


まさにその通りですよね。
中世ヨーロッパの魔女狩りや異端審問。
かつて社会的に殺されたガリレオやコペルニクス、
酸素の発見者・ラボアジエを焼いたフランス革命や、
そして近代ではポル・ポトに代表される共産主義の悲劇など、
挙げていけば本当にキリがありません。

これらの国で起きた悲劇に共通するのは、
「危険思想の持ち主は、容赦なく殺していく」
という恐るべき真実。

そして「本を焼く」という行為はまさに
「民衆の思想を政府がコントロールしている」
ことに他ならず、そして政府がそのような暴挙に出れば、いずれは
「人命をも奪うことになる」
ということを、文字通り歴史が教えてくれているのです。

そのような危険な時代であればこそ、
思想の自由を守るために、図書館が軍隊をもつということも
決して大袈裟な話ではなく、実際にあり得るかも、と。
そう思わせる有川氏のディテールの深さはまさに驚嘆するほか無く。

で。

主人公が所属する図書館特殊部隊の任務は、
あくまで「図書館を守ること」です。
つまり自衛こそが存在意義であり、
決して「検閲部隊の殲滅」が目的となることはありません。

だからこそ、彼らは"正義の味方"ではありえないのです。
そもそも"正義の味方"であろうとすれば、
正義に反目する"敵"の存在が必要不可欠となり、
そして"正義の味方"たるもの"敵"の殲滅をこそ至上の目的としなければなりません。
つまり"正義の味方"は受動的側面だけでなく、
能動的に攻め込んでいく側面を持ち合わせていなければならないのです。

「図書館を守る」という任務は、
ひいては「本を守ること」に繋がりますけど、
それでも全国の書店やコンビニに置かれている本まで
政府の検閲から救うことは、彼らにはできません。

図書館特殊部隊の任務は、あくまで「図書館を守ること」。
それ以上でも、それ以下でもありません。

しかし。
それでも、この本を読み終えた僕は敢えて言いたい。

彼らこそ、正義の味方であると。

主人公は迷わず決断します。

誕生日の記念に買ってもらえる筈だった絵本を取り上げられた子供を目の前にして。
メディア規制法の影響で、本の価格が一冊数千円から数万円にまで高騰したせいで、
なかなか本を買ってもらえなかった子供が、
誕生日プレゼントにと、初めて買ってもらえる筈だった絵本。

その記念すべき絵本を、メディア良化委員会の委員が、
検閲のために容赦なく子供から奪い取ります。

泣きそうな子供。
憧れの、初めての本。
しかし逆らえば、怪我では済まされないことも分かっている。
だから誰もが泣き寝入りするしかない、この状況で。

主人公は迷わず決断します。

自分が図書隊員になったのは、何のためだ。
図書館を守るために図書隊員になったのではない。
「本を守るために」図書隊員になったのだ。

必死で勉強した。
念願の図書隊員になれた。
そしていま。
無慈悲に絵本を毟り取られる子供を、目の前にしている自分。

そんな子供を救うことも出来ないのであれば、
自分は何のために図書隊員になったのだ!

図書隊員としての心構え?
そんなもの知るか!
図書館の立ち位置?
それがどうしたと言うのだ!
図書館と政府の裏取引、政治、カネの流れ、新聞・テレビ等メディアからの攻撃。
子供を救うために被るであろう諸々の問題なら、いくらでもあげつらう事ができる。

だけど!
読みたい本も読めなくて、今にも泣きそうな子供を守ることもできないならば、
自分は何のために図書隊員になったというのだ!

後先考えず、純粋な感情と透明な正義感だけで判断し、行動する主人公。
その行動を一人の大人として見れば、
組織の枠からはみ出たアウトサイダーと写ることでしょう。

しかし、だからこそ、熱い。
色々な事情を蹴り飛ばして、汚らしいオトナの事情を張り倒して、
「救いたい」という余りにも清廉な想いだけで行動する主人公は、
ただただ高潔な姿として読者の胸に落ちてくるのです。


作中で、主人公の親友がこのようなことを言います。

「お膳立てされたキレイな舞台で戦えるのはお話の中の正義の味方だけよ。
 現実じゃ誰も露払いなんかしてくれないんだから。
 泥被る覚悟がないんなら正義の味方なんか辞めちゃえば?」


あまりにも辛辣で、容赦なくて、現実だけを突きつけた鋭利な言葉。

そうです。
やっぱり現実は厳しいのです。
色々な事情があって、風当たりがきつくて、
正しいと思った事や正論がまかり通らないことなどいくらでもあるのです。

それでも主人公は、己の道を行きます。
正しいと思った事。救いたいと思った事。
ときにその思いだけが空回りしてしまうこともあるけど、
それでも想いの純粋さだけは一切濁らせずに。

尊敬できる上司。
優秀な隊長。
信頼できる仲間。
素晴らしい同僚に囲まれて、主人公は無垢な理想を大切に胸に懐き、
危険で険しい図書館業務を今日もこなしていくのです。


面白かった。本当に面白かった。

嫌な上司、気に食わない同僚、納得いかない組織体系。
それら「オトナの事情」に日々苛まれて疲れてしまった紳士淑女の皆さん。

いわゆる「熱血バカ」が主人公を張るこの図書館戦争をご一読くださいな。
まるで少年マンガのように、爽やかで気持ちの良い、
しかしどこか痒い物語を堪能できることでしょう。





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