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らき☆すたSS 1-1.出会う

らき☆すたSS
「勇気の指環」
~まだ幼かった僕らが、無邪気に笑い合えていた頃の話~

1.出会う



まだ桜の香りが残る4月の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、
泉そうじろうは走り続けていた。
プールのように透き通った青空からは燦々と陽光が降り注ぎ、
少し涼しさの残る空気を暖めてくれるようだった。
しかしこの柔らかい太陽の恵みも、
あと数ヶ月もすれば呪いたくなるほどの強い熱を持って、肌を焦がしつけるのだ。

そうじろうはシクシクと痛み始める脇腹を恨めしげに押さえる。
興奮にあてられて昼食を急いでかきこんだせいだろうか。
しかしこれから始まる公園での時間を思えば、そんなこと気にしていられない。
脇腹に添えられた手を離すことはできなかったが、
同時に綻ぶ表情も引き締めることはできなかった。

発端は今日の午前中。
小学三年生へ進級したそうじろうは始業式を終えて、
級友となる友人たちと顔を合わせたときのことだ。

クラス替えによって新たな友人を得るという新鮮な痺れと、
旧来の友人たちと顔を合わせることの安心感。

ほんの微かな緊張感を伴いながら行った自己紹介の中で、
そうじろうは思い切ってみんなを誘ってみたのだ。

「シカイダーが好きなやつ、今日の午後にみんなでシカイダーごっこやろうぜ!」

クラスの女子からはガキっぽい、と腹の立つ批評しかもらえなかったが、
先生からは皆が仲良く遊べる良い思いつきだと高評価をもらえたし、
肝心の男子からの感触が概ね好ましいものであることが嬉しかった。
クラスの男子の半分ほどがその誘いに快諾し、
午後に近所の公園に集合することが決まった。

期待は膨らむ一方で、そうじろうの意識は早くも放課後に向かっていた。
こういうヒーローごっこにおいては、
「誰が主人公役を演じるか」
で最初に仲間同士がこじれるものだ。
そのこじれを収束させるにはそれなりの理由が必要で、
腕っ節の強い少年が主人公役を演じたり、
あるいはグループの中心的人物が演じることで解決したりもする。

しかしそのどちらにも属さないパターンとして、
そうじろうは「主人公を演じるに相応しい」資格を持っているものが
主人公役を勝ち取ることがあることも知っていた。
例えばヒーローベルトを持ってる者とか、
単純にヒーローの物真似が一番うまい者が演じることである。

そしてそうじろうは、後者に属する。
それも誰にも負けない程、うまく演じられる自信があった。

シカイダーは先週から始まった新番組で、まだ第一話しか放送されていない。
そのシカイダーを、そうじろうはビデオに撮って、
何回も何回も繰り返し観直していた。
それこそキャラクターの台詞ひとつひとつを丸暗記し、
変身ポーズも完全に再現出来るほどに。
オープニングとエンディングをそらで歌うなど朝飯前だ。

その努力も、今日という日のために精練されてきたものだ。
誰よりも早く、誰よりも完璧に主人公を演じきるため。
新たに得た友人たちの尊敬の眼差しを、
ヒーロー・シカイダーを演じることで得んがため。

だから今日のシカイダーごっこは、
そうじろうという少年が皆の注目を一身に浴びる、デビューの日だと言えた。

クラスの中心になるわけではない、かけっこや勉強で一番になるわけでもない。
しかしそのささやかな注目は、
幼いそうじろうにとって努力してでも勝ち取りたいものであったし、
その努力の結実がこれから訪れるとなれば、胸の高鳴りだって抑えきれなくなろう。

正午に差し掛かる前に学校の束縛から解放されると、
そうじろうはおあずけを食らっていた犬のように教室から飛び出す。

「便所公園に集合だからな! 間違えんなよ!」

最後に念を押しておくことを忘れない。
便所公園とは何とも品のない呼び名だが、
それでも辺りの子供たちは親しみをこめて、
学区内で一番広い公園のことをそう呼んでいた。
広場の隅に公衆トイレが備え付けられていることからそう名付けられたのだが、
トイレへ一歩踏み入れたときのあの強烈なアンモニア臭を体験すれば、
何故こんな不名誉な愛称を承ったのか理解できるというものだ。

脇腹の痛みが高揚感を制し、そうじろうの足を駆け足から歩みへ遷移させた頃。
ぽつん、と道端に佇む少女の姿が目に入った。

誰かを待っている風でないことは明らかだった。
ランドセルのベルトを両手で握り締めながら、少女はきょときょとと辺りを見回し、
不自然に周囲の景色を観察していた。
時折足を動かしたかと思えばすぐに止めて振り返り、
先ほどの交差点まで戻ってみては、また振り返る。

明らかに、迷子だった。

まだこの辺の地理に不慣れなのだろうか。
似ているようで似ていない家々が立ち並ぶこの通りでは、
曲がる場所をひとつでも間違えれば途端に方向感覚を麻痺させてしまう。
特に最近は新築・改築する家が多いことから、
どこの家も似たような壁、似たような高さ、似たような色の家が
ズラリと並べられるようになった。

不安げな表情を浮かべたままの少女をなるべく見ないように、そうじろうは歩を進めた。
誰が困っていようと、自分には関係ない。
少女は見ず知らずの他人だし、
そもそもそうじろうだって彼女の素性がわからない以上、
迷子となった彼女に手を差し伸べたところで何の助けにもならないことは明らかだ。

それに自分には、便所公園で待ってくれている友人たちがいる。
自分の呼びかけに応じてくれた友人たちがいるのだ。
そんな彼らの期待を裏切ってまで見知らぬ少女に手を差し伸べたところで、何の益になろうか。

そう自分に言い聞かせながら、そうじろうは少女の隣を歩み過ぎようとする。

「あ・・・」

それは吐息にも似た、少女の小さな呟き。
声をかけることすら憚られたのだろう。
それは小さな勇気を実らせること叶わなかった、しかし少女の逡巡を余さず表現した、悲鳴だった。

その悲鳴は、強烈にそうじろうの耳を叩いた。
助けを求める小さな嘆きが、確かに届いたのだ。

見知らぬ土地と、そこに取り残される不安。
見知らぬ人間ばかりに囲まれた、その孤独。
前後を見渡しても解決策の見えぬ袋小路の中で、少女は確かに助けを求めていた。

そうじろうは少女に振り返る。
そこで初めて、少女の顔を正面から見つめた。

肩まで伸びた黒髪は、白いリボンで綺麗にまとめられている。
少し丸みを残した頬は柔らかそうで、その上で揺れている瞳は不安に染められていた。
震える両手はランドセルのベルトをしっかりと握っているが、
そのランドセルがなければ、
そうじろうは彼女が小学生だと気づけなかったかもしれない。

級友たちの中では比較的背の高いそうじろうだったが、
それでも少女の背の低さは際立っていた。
背の高さだけで言えば、幼稚園に通っている妹とほぼ同じ背丈だ。
それだけで、少女がそうじろうにとって数少ない下級生であるということは、容易に想像できた。

「どうしたんだ、お前?」
「・・・み、道に、迷っちゃって・・・」

予想通りの答え。
時折しゃくり上げるその仕草は、
泣き出しそうになる衝動を必死に抑えている事の証左だ。

一度泣き出してしまうと、どんな子供でも一切合切のコミュニケーションが取れなくなることを経験的に知っていたそうじろうは、少女が応答できる今のうちに最低限の情報を聞き出そうとする。

「お前、どこに住んでるんだ?」
「・・・わかんない」

それもそうだ。わかっていれば迷子になどなりはしない。

「家はどんな家だ? 緑色の二階建ての一軒家とか、10階建てマンションの5階に住んでるとか、何かないか?」
「うちは白い壁で、屋根はちょっと黒い・・・かも。あと二階建てだよ」
「そんな家はここら辺に沢山あるしなぁ・・・。それじゃ、家の近くに何かないか? この辺だとお寺とか幼稚園とかあるから、その近くだったら俺でも連れて行ってやれるぞ?」
「・・・わかんない」

参った。あっという間に八方塞がりだ。
家の特徴もわからなければ、近所に特別な施設があるわけでもない。
家の方向もわからなければ、きっと住所もわからないだろう。
もっとも住所がわかったところで、三年生のそうじろうではそこへ連れて行ってやれる自信など皆無だったが。

しばし二人で気まずい沈黙を過ごした後。

「・・・とりあえず、俺んちに来るか?」

苦し紛れの提案だった。
それが根本的な解決策になっていないことはそうじろうも理解していたが、
それでも道端で途方に暮れているよりは余程建設的な案だと思えた。
少なくとも家に帰ればお母さんがいるし、
大人の知恵を借りればあるいは解決できるかもしれない。

こういうのを「三人寄れば文殊の知恵」と呼ぶのだろうかと、
最近ことわざ辞典を読んだそうじろうは思った。

そうじろうの問いかけに対し、少女がコクリと頷いたのを確認すると、
そうじろうは自宅に向けて歩き始める。
それに追い着くようヒョコヒョコと歩いてきた少女は、
そうじろうの隣に並ぶと、スルリと手を繋いできた。

ドクン、と心臓が大きくひとつ鳴った。
妹以外の女の子の手を握るのが初めてだったそうじろうは、
一瞬たじろいで少女の顔を見てしまう。

しかし少女の表情は特に意識した様子もなく、いたって平然としたものだ。
きっと少女は何気なく、それこそ兄弟と手を繋いでいる感覚なのだろう。

自分の動揺を感じ取らせまいと、そうじろうは繋いだ手をしっかり握り締め、
ぶんぶんと前後に大きく振りながら歩いてやった。

「わ、わわ・・・」

無理やり振り回される腕に翻弄されながら、
少女は何とか繋いだ手を離さぬように食いついてくる。
少女はそれに対抗して、何としても腕を振らせまいと、グッと腕に力をこめている。

その反抗を感じ取ったそうじろうは、少女の表情を覗いてみる。
案の定、少女は無理やり力を込めているせいか、無表情で正面を見据えていた。
口にこそしないが、その表情から、『負けないよ』という主張が繰り返し聞こえてきた。

「この、シカイダーの力を舐めるなよ!」

フンッ、と息を止めて思い切り前後に振る。
流石にそうじろうが渾身の力を込めてしまえば、
少女は全く翻弄されるままになってしまう。
だから一往復だけ腕を振ったら、今度は力尽きた振りをして、
少女の抵抗力に屈したかのように腕を止めてあげた。

そんなそうじろうの演技に気づいたのか気づいていないのか、
少女は先ほどとは打って変わった笑顔をそうじろうに向けていた。

腕を振って、止める。また振って、また止める。
たったそれだけのやり取りが、一時的であるにせよ、
少女から憂鬱を拭い取り、代わりに爽快な笑顔を取り戻させた。

あるときはリズムを変えてみた。またあるときは前後ではなく、左右に振ってみた。
そんな何でもないやり取りを無言で繰り返しながら、そうじろうたちは歩き続ける。

会話はなかった。
正確には必要なかった。
無意識に漏れ出るクツクツという抑えた笑い声が、
少女の気持ちを雄弁に物語っていたから。

少女の楽しそうな横顔を盗み見ながら、
そうじろうは改めて、握る手の小ささを意識していた。

見慣れぬ道、見知らぬ他人、見回せど味方の見当たらないこの土地で、少女はどれほどの不安と寂しさを抱えていたのだろう。

だけど、孤独と不安に染め上げられた表情は、もうどこにも残ってない。
今の少女を染め上げるのは、白い歯を見せるほどの、満面の笑顔だ。

級友たちとの便所公園での約束を忘れたわけではなかったが、
それでも少女の悲観と焦慮を拭い笑顔を取り戻すことができたのだから、
まぁいいか、友人たちにはもう暫く待ってもらおう、という気持ちになっていた。

そして次の交差点を曲がれば、そうじろうの自宅まで一直線という場所まで来たとき。

「あ、ここ!」

少女はパッと手を離し、そうじろうを先導し始めた。
見慣れた通りに着いたのだろう、笑顔で駆ける少女の表情は安心感からくるそれだった。
そんな少女を早歩きでついていきながら、
そうじろうは少女の自宅が思いの外近所にあることに、多少の高揚感を抱いていた。

「ここ! ここがわたしんちなの!」

嬉々とした表情で指差す家を見て、そうじろうは驚いた。
そこはそうじろうの自宅の4軒隣の家で、直線距離にすれば50mと離れていない程の近所だったからだ。

そういえば、と数週間前の記憶を掘り起こす。
春休み中に便所公園へ遊びに行ったとき、
確かに近所に引越し用のトラックが止まっていた。
そのときは特に意識していなかったが、まさかここが少女の家だったとは。
それによく記憶の中の画像を漁ってみたら、
トラックの中からやたら大きなウサギがヒョコヒョコと歩いてきたのを思い出した。

ちょっと、かまをかけてみようか。

「もしかして、お前大きなウサギのぬいぐるみ持ってないか?」

瞬間、少女の瞳が驚きのそれで大きく開かれた。

「凄い! どうして知ってるの?」

予想通りの反応に、少し得意になる。

「まぁな。シカイダーは何でも知ってるのさ」

ふふん、と鼻を鳴らしながらそう嘯くと、少女は呆、と尊敬の眼差しを向けてくる。
その素直で愚直な反応は、そうじろうの優越感をくすぐるのに充分だった。

「泉くんって凄いね。私の家だけじゃなくて、何でも知ってるんだぁ」
「まぁな、シカイダーは何でも知ってるし、何だってできる。正義の味方ってのはそういうもんなんだ」

気障っぽく前髪をかき上げる仕草をする。
そもそも少女の家を知っててここまで来たわけではないし、
ウサギのぬいぐるみを見つけたのだって偶然に過ぎない。
しかしそれらを棚に上げて気障っぽい仕草をしてしまう程には、
少女から向けられる尊敬の眼差しに有頂天になっていた。

いや、だからこそ、とも言えるだろう。
真っ先に反応すべきだった事項に疑問を持つことが出来るまで、
数秒の時間を要したのだから。

「・・・お前、どうして俺の名前を知ってるんだ?」

キョトンとしたのは、少女の方だった。
そして表情はみるみる悲哀のそれへと変貌していく。

「・・・泉くん、私の名前覚えてくれてないの?」
「い、いや、覚えてないも何も、俺たち初対面だろ?」

その言葉は地雷だったようだ。
あからさまにしょげる少女の姿が、二人は初対面ではないことをよく表している。

しかしその事実に戸惑いを隠せないのは、そうじろうだって同じだ。
自分の名前を知っているような下級生の知り合いなんて、数えるくらいしかいない。
隣に住んでいる明弘、向かいの通り沿いの亮太と、その妹の加奈子。
あとは克彦の弟の祐樹くらいのものだが、この兄弟とはほとんど遊んだことがない。

そうじろうは過去の記憶を必死で掘り返す。
幼稚園から始まり、公園でのみ遊ぶ悪友たちの顔をひとつひとつ思い出した後、
小学校で出会った級友とその兄弟たちを順番に脳裏に浮かべてみる。

名前を思い出せるもの、顔しか思い出せないもの、
それこそ男女関係なく最後の一人になるまで思い返してみたが、
やはり少女の容姿に適合する知り合いは存在しなかった。

「・・・ごめん、どうしても思い出せない」

悪びれながら素直に謝罪するそうじろうに多少機嫌を直したのか、
恨めしそうに上目遣いで睨みながらも、少女は口を開いた。

「・・・かなた」
「え?」
「保志かなた。私の名前」
「・・・保志、かなた?」

即座に過去の友人データベースに照会をかける。
しかし星野という名前に覚えはあるものの、
保志という姓に一致する知り合いはいなかった。

「・・・今日自己紹介したばっかりなのに、ひどいなぁ・・・」
「・・・え? 今日?」
「そうだよ、せっかく同じクラスなのに」

あっ、と思わず声をあげてしまう。
そうだ。言われてみれば確かに、
妙に背の低い、ちんちくりんな女子が一人、同じクラスにいた。

そんな多少なりとも印象に残った女子のことを覚えていられなかったのは、
そうじろうが自分の自己紹介を追えた後に、
すっかり意識を放課後へと飛ばしてしまったからだ。
それも少女の姓は「保志」だから、長く続く級友たちの自己紹介の中で、
皆の意識が散漫になったタイミングでの自己紹介だったに違いない。

だからと言って、
そうじろうがかなたの名前を覚えていなかったことの言い訳にはならない。
これは明らかにそうじろうの過失である。

「その、ごめん。覚えられてなくて」
「・・・いいよ、もう」

頬を膨らませながら答えるかなた。

「でも、もう忘れないでね?」
「ああ、約束だ。絶対に忘れない」
「・・・じゃぁ、指切り」

そう言って少女は、小指をそっと突き出す。
その行為が示す意図を知らないわけがない。

「いや、そんなことしなくても、もう忘れないって」
「いいの、指切りするの! こういうのは、『形から入るもの』なんだから!」

意味を理解して言っているのだろうか。
そうじろうは軽い苦笑を漏らしつつも、己の小指を少女のそれに絡ませる。

「ゆーびきーりげーんまん、うそついたらハリセンボンのーます」

幼稚園の頃から繰り返されてきた、その儀式。
知らぬものなどいないこの儀式を、
そうじろうは小学校に入学してから滅多に行わなくなっていた。
それは、この儀式を介したとしても、
破った際に何のペナルティを負う必要がないため、
必ず約束が守られるわけではないということを経験的に学んでいたからだ。

ガキっぽい。時間の無駄。やるだけ無意味。

そんな斜な見方しかしてこなかったこの指切りも、
そうじろうは今だけでも素直に受け入れようと思えた。
それは少女の名前を覚えていられなかったことへの、微かな罪悪感からか。
少女が余りに自然に指きりをせがんできたからか。

だけど、理由は何だって良かった。
少なくともそうじろうの心の中には、
目の前の小柄な少女に対してだけは誠実であり続けようという、
少年特有の淡い桜色の決意が生まれつつあったからだ。

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