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長谷敏司「戦略拠点32098 楽園」感想

長谷敏司の「戦略拠点32098 楽園」を読んだ。面白かった。

円環少女シリーズの作者・長谷敏司氏のデビュー作となる本作。
第6回スニーカー大賞で金賞を受賞した作品と銘打たれるだけあって、
その完成度は本当に見事の一言。

戦闘に破れ、自軍から見放された一人の兵士が、とある惑星に着陸します。
そこで出会った、一人の少女と、一体の鋼鉄の兵士。
そして物語は始まります。

戦いの中に身を置く事が当たり前になってしまった兵士と、
戦いの事など何も知らぬまま惑星で暮らす少女が織り成す、
奇妙で、滑稽で、しかしこの上なく平穏な生活は、
兵士の心に少なからない変化をもたらします。

ささくれた皮膚には温い湯でさえも僅かな痛みをもたらすように、
親の顔も知らず、闘う事でしか自己を見出せない哀しい一兵士の荒んだ心には、
少女のあどけなく澄み切った笑顔が、
時に疎ましく、しかし途方も無い愛おしさで満たされていくのを実感できるのです。

穏やかで、静かで、愛しくて、何も生み出さない、
しかし柔らかい輝きとなって紡がれる、
1人の少女と2人の兵士が織り成す奇妙な生活。

やがてその輝きが失われるとしても、
しかしこのたった一瞬の輝きは、
確かな意味を伴って、兵士たちの心の中に在り続けるのです。

余りにも、滑稽な出会い。
余りにも、皮肉な巡り合わせ。
しかし3人にとって、この瞬きのように頼りない、しかし確かなこの邂逅こそが、
星間戦争よりも大きな重要性と価値をもたらし、
それぞれの想いと生涯に決定的な変革を与えました。

どこか切ない物語。
ただどこまでも感傷的な物語。
平穏で、それぞれの心をぶつけ合う、ただそれだけの物語。

だけどそれ故に、深い。

兵士の存在意義、少女の使命、惑星の"楽園"としての在り方。
それぞれが途方も無く深い意義を持ち、
その圧倒的な存在感に打ちのめされながら、
3人は悩んで、憤って、泣きたいのに泣くこともできず、
そして痛みを伴いながらも決断を下すのです。

面白かった。本当に面白かった。

狼と香辛料のような緻密な構成力があるわけではない。
涼宮ハルヒのようなわかりやすい見せ場があるわけでもない。

しかし、人としての生き方、平穏への郷愁、
そして自分のことを忘れないでほしいという、
余りにも単純で、しかし強い願い。
人の死や尊厳をSFロマンを通して真正面から描ききった、素晴らしい傑作でございました。

これは本当に皆さんにもぜひ読んでいただきたい大傑作でしたけど、
惜しむらくは、これがすでに絶版となってしまっていることか。
オイラ自身、これはAmazonマーケットで古本として買いましたし。定価以上で。

もしオイラの駄文に興味を持ってくださる御仁がいらっしゃれば、
例え定価以上の投資をしてでもこの本を手に入れるべきです。
そしてもし興味を持つ事が出来なかったとしても、
古本屋などでこの本を見つけることが出来たら、ぜひその場で購入すべきです。

本当に素晴らしいSF小説でございました。
ぜひ皆さんとこの感動を共有したい、そう思わせる一冊です。




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