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桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」感想

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

桜庭一樹の「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」を読んだ。面白かった。

桜庭さんといえば「私の男」で直木賞を受賞したことで有名ですが、
巷の桜庭さんレビューを見ますと
最初に読むべきはこの「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」である、
との見解が四方で散見されたため、早速購入、そして読了。

何とも言えぬ、哀愁と感傷に満ちた物語でありました。

物語はただただ、
転校してきた謎の美少女・藻屑と、
主人公・なぎさの心のぶつけ合いのみから成ります。

藻屑の抱く孤独と痛み、
なぎさの抱く憐情と不安、
彼女たちはそれぞれの悩みと苦痛に懊悩し、
そして相手の痛みを少しでも和らげてあげようと、
不器用な優しさで、でも確かな情をもって、
傷口に触れるようなそろそろとした手つきで、
互いの心を理解し、不安を除き、流れる涙を拭ってあげようとするのです。

安寧、平穏、安心。
そんな穏やかな静謐とはかけ離れた生活を余儀なくされた彼女らにとって、
何でもない安らぎを得られる生活は、
途方もなく遠く、一種の憧れとも言える理想の生活でした。

そして藻屑にとってはなぎさと一緒にいることが、
なぎさにとっては藻屑と一緒にいることが、
少なからず彼女らの心に僅かな、本当に微かな、
しかし確かな充足を得られる、貴重なひとときとなったのです。

将来、進学、家族、親、恋、友情。
思春期の少年たち特有の問題を、
彼女らはある時は真正面から、ある時は目を反らしながら、
しかし最後には何かしらの決着をつけようと、
心を痛め、血を流し、そして互いを労り合って、
細く小さな体を引きずりながら、
それでも少しずつ悩みと不安の壁を乗り越えようとしていくのです。

悲嘆、哀切、悲哀、愁嘆、悲劇、悲痛、哀惜。
この物語を表現できる言葉の数々。
そして慟哭のエンディングへひた走るクライマックス。
この物語を表現する言葉は陰鬱なものしか思い浮かべられないけど、
それでも彼女らが最後に抱いた想いは、
不確かな将来に対して、曖昧だけれど、
それでも想いを託すに充分な希望と安寧が待っていたのだと、
そう思わずにはいられないのです。


面白かった。本当に面白かった。

これほど哀愁漂う物語というのもなかなか珍しいですけれども、
ただそれだけではなく、
情景の描写も本当に素晴らしいものでありました。
たとえば、これ。

蒸し暑い夕方だった。虫の音色が聞こえてくる。舗装していない道の向こうに陽炎がぼんやりと浮かび上がっている。山からは藁を暖めたような土臭くて生温かい香りが漂ってくる。土と、葉と、湿気の醸し出す香りだ。

蒸し暑い残暑の夕方を表現するのに、
「香り」を織り交ぜてくる作家さんて実は凄く珍しいのですよ。
これが「海」や「山」であれば、
潮の香りや山の空気などで香りを表現する人もいますけど、
何気ない田舎の下校道において、
すとんと香りを違和感なく織り交ぜてくる桜庭さんの感性は、
実に素晴らしく、ここを読んだときに思わず感嘆のため息をついてしまったほど。

それから、これ。
悲しみが襲いかかってきたので、振り払って、歩いた。校門をくぐり、舗装されていない田舎道を早足で歩いた。古いアスファルトがところどころ砕けて、盛り上がって、その下から雑草が顔を出していた。あたしは、こんなふうに図太く生きられたらいいのに、と思いながら雑草を軽く踏んでみた。ぜんぜん平気そうだった。

少女の悲しみと苦悩や苛立ちを、
ささくれ立った心を自発的に表現させるのではなく、
あくまで少女の行動でもって、
少女の不安定な心情を表現しきった、素晴らしいくだりではありませんか。

そしてもっとも美しい描写が、これ。
蜷山がいつもより大きく見えた。太陽がぎらぎらと照りつけていた。稲穂は青々と茂って、時折吹く風に寝かされてそこだけ色を濃くしている。まるで姿の見えない巨人が通り過ぎていく足跡みたいに、ところどころ色が変わっていく。

何と美しい情景描写でしょう。
肌を焼くような陽光と、それを冷ましてくれる心地よい風、
そして風に揺られる稲穂が奏でる、サァ、という軽やかな音楽までもが、
いままさに聞こえてきそうな文章ではありませんか。

広大な田んぼの端から端までを流れていく、色の濃い緑色の波。
それらが奏でる、稲穂の乾いた音。
残暑の太陽はまだまだ厳しくて、緑を塗りたくったような稲穂は
陽光と風を受けて舞うようにゆらゆら踊る。

そんな情景が、あらゆる角度から、
ある時はミクロな視点見上げるように、
ある時はマクロな視点から見下ろすように、
この少女たちの立ち姿を読者に見せてくれるのです。


いやぁ、本当に素晴らしい小説でありました。
これはラノベが主なターゲットとする中高生に
是非とも読んでほしいと思わせる、素晴らしい小説だったと思います。

もちろん、良い大人が読んでも楽しめること間違いないので、
まだ読んだことがなく、桜庭一樹さんに興味を持たれた方は
是非読んでみてください。



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