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それは繁栄への標か、滅亡への徴か「ジェノサイド」

Postach.ioも更新してます。
今後はPostach.ioをメインに更新しようと思いますのでよろしくです。
しばらくは並行して更新します。




■高野和明「ジェノサイド」



総評:★★★★☆(4点)

このミステリーがすごい!2012で国内小説第一位を受賞した作品。
その肩書きに惹かれてハードカバーで購入してから早2年、このたびようやく読み終えた。

創薬に励む大学院生と、コンゴ共和国でアメリカの秘密作戦に従事する米国人傭兵。
本来であれば何の接点もなく出会いどころかすれ違うことすらなかったはずの二人が出会うとき、人類は進化と繁栄を続けるのか、それとも絶望と滅亡へひた走るのかという分水嶺へとさしかかる。

本書は二人の人物を主軸に物語を展開していく。
一人は日本の大学院生。謎に満ちた父親の死、遺されたパソコン、奇妙な手紙と、そこに書かれた父からの遺言「誰にも話すな、一人だけでやり遂げろ」。
もう一人はアメリカ人傭兵。難病に冒された息子、必要な治療費、それでも徐々に消えようとしている小さな命の灯火、アメリカからの奇妙な作戦命令、内容は「見たことのない生物を殺せ」。

二人の主人公は、自分がいま何をしているのか、自分がやろうとしていることに何の意味があるのかすらわからぬまま、ただ行動に移すことを求められる。
だが物語が進むにつれ、彼らは思い知ることになる。
自分が何をなそうとしているのか。何をやらされようとしているのか。そしてその裏に潜む恐るべき謀略の影を。

テンポの良い物語構成と先を読ませぬ展開は、読者を物語世界へどっぷりと引き込ませること間違いない。
美しい友情も、儚く幼い命の灯火も、それを救うために燃やされる情熱も、吐き気を催すほどの醜悪さも、人間の美しさとおぞましさがこの一冊の中で切実に描写されている。

ただ他の書評でも書かれているように、本書では少々反日・反米思想が過ぎているように感じた。
人によってはこの思想に違和感を感じることもあるだろうが、そういった思想は脇に追いやって、単純に物語だけを楽しむことをおすすめする。

久々に物語へ没入する感覚を味わうことができた。
おすすめ。

アルゴリズムに潜む人類の叡智を知れ「世界でもっとも強力な9のアルゴリズム」

Postach.ioでも更新してます。そちらもどうぞよろしく〜。




■ジョン・マコーミック「世界でもっとも強力な9のアルゴリズム」


世界で初めてコンピュータが発明されたのは1946年のことだが、依頼60年以上の年月をかけて、コンピュータは世界中の人々に使われて、先進国だけでなく途上国においても重要な存在となっている。
コンピュータは外来語だが、もしこれを無理やり日本語にしようと思えば「計算機」という表現が一番しっくりくるが、実は「計算機」と「コンピュータ」の間には余りに大きな隔たりがある。

「計算機」とは読んで字のごとく、「計算」しかしない。
例えばそれは3桁の掛け算であったり、あるいは数桁の足し算であったりする。
そう、計算機とは読んで字のごとく「計算する機械」であり、それ以上でも以下でもなかった。

これに革命をもたらした人物こそイギリスの天才数学者アラン・チューリングである。
彼は「チューリング・マシン」という仮想計算機を打ち立て、そのなかで「コンピュータ」というものを「プログラム可能な計算機」として発明した。
いわゆる「ソフトウェア」という概念の発明である。
こうして彼は「プログラム」という形の命令系統をコンピュータに施すことで、文字通り不眠不休で24時間働きつづける「機械」に、様々な計算をさせることに成功した。これがドイツ軍のエニグマ暗号機の解読に役立てられたことは非常に有名だ。

さて、アラン・チューリングに端を発するコンピュータとソフトウェアの歴史の中、これほどコンピュータが世界に浸透したのはソフトウェアの力に他ならない。
そして世界に革命をもたらしたあらゆるソフトウェアのなかで、もっとも重要であり革新的なアルゴリズムを紹介しているのが本書だ。

前置きが長くなってしまったが、本書はIT系に通じてない人に向けて書かれた本だ。
銀行のATMから安心してお金を引き出したり預けたりできるのは、どういったソフトウェアの力が働いているのか?
わからないことをインターネットで検索することをネットスラングで「ググる」とまで呼ばれるほどGoogleの検索機能は優秀だが、この飛び抜けて優秀なGoogleの検索機能はどんなソフトウェアが動いているのか?
Amazonで買い物したり、インターネットでチケットを購入したりと、インターネットでクレジットカードを使用する場面は非常に多いが、なぜ私たちは安心してクレジットカードを使うことができるのか?この情報は誰かに盗聴される心配はないのか?
本書はこういった「コンピュータ」を使ううえでの素朴な疑問に答えてくれる。

重ねて言うが、本書はIT系に通じてない人に向けて書かれた本だけに、内容は非常にわかりやすく、丁寧に解説されていて凄くわかりやすい。
特に公開鍵暗号の説明をするくだりでは、公開鍵と秘密鍵の関係を「ぐちゃぐちゃにまぜたペンキ」に例えるなど斬新な解説で、非常に興味深い内容だった。

だがこれもあくまで初心者向けの解説であり、私のようなIT産業に従事する人種からすると、少々退屈な内容だったことは否定できない。

IT系の技術者であれば、本書に書かれていることは必ずどこかで耳にしたことのある内容だと思う。
だが普段からあまりコンピュータの内部仕様などに意識を傾けない人にとっては、本書の内容はとても興味深いに違いない。

難しい技術も巧みなたとえ話で説明する筆者の手腕は見事の一言だ。
もし上記の「コンピュータの素朴な疑問」に興味を抱かれたならば、本書を手に取ってみるのも良いかも知れない。

最近読んだ本の感想をダダ漏れ

Postach.ioでも更新してます。どうぞよしなに。




それはそうと、最近読んだ本を気ままに感想〜。

■サイモン・シンの「暗号解読」
 
ある詩人は言った。
「秘密は刃物と一緒だ。子供と愚か者に持たせると大変なことになる」

秘密とはとても魅力的であり、人の興味をひいてやまない。
だがそれが個人のものであれば単なる「興味深い」ものでしかないが、それが団体、とりわけ国家のものとなれば話は違ってくる。
何万人もの生命が関わるだけでなく、その後の人類の歴史にすら影響を与えかねない。
だからこそ人類は秘密を守るための技術、すなわち暗号を発明した。

本書は暗号の歴史について書かれた本だ。
それは同時に、秘密を守るために奮闘した人々、そして秘密を暴くために奔騰した人々の戦いの歴史でもある。

本書で描かれる暗号の戦いは非常にエキサイティングだ。
暗号によって守られていた人々と、その守護を粉々に打ち砕き、ひとつの国家の歴史を大きく変えてしまった解読者。
本書で描かれる、暗号の歴史の裏で繰り広げられた人間の血なまぐさい戦いはまさに戦争と呼ぶほかない。
暗号を解かれたがゆえに殺された人、国家を追われた人、そして敗北し蹂躙された国たち。
暗号の歴史とは戦争の歴史であり、それはすなわち人類の歴史でもある。
そのことを本書は生々しく描き、表現していて、読みながら鳥肌を抑えられぬほどだった。

では本書は暗号に携わった人々を描いただけで、暗号そのものには言及していないのかというと、そんなことは決してない。
暗号の専門書ではなく、素人向けに書かれた本であるにも関わらず、これほど仔細に暗号技術について書かれた本は他に見たことがない。
訳者はあとがきで以下のように述べている。

「仮にタイムトラベルで二十世紀初めに戻ったとして、これを読んでおけば自力でエニグマ機を組み立てられるのではないかとまで思わされた本は本書だけだ」

暗号の技術、暗号の歴史、そして暗号に関わった人々の奮闘を本書は血の通った文章で鮮烈に表現している。
本当に面白かった。
非常にオススメです。


■賀東招二の「甘城ブリリアントパーク3巻」


今回も2巻と同様、ブリリアントパークの面々が織りなす日常の風景をふわふわと描いた掌編集。
とはいえ、ふわふわ感で言えば2巻のそれよりもさらにふわってる。
2巻はそれでも経営に関する覚悟や売上、そして事業売却などの話題が上がっていたものだが、今回は本当にそういったギスギスした話はなりを潜め、始まりから終わりまでふわふわとして終わった。
なんつーか、フルメタルパニックの日常パートを読んでる感じ。
いや、こういうお話も大好物なのでどんどんやって欲しいしむしろいすずの出番を増やしてほしいというかちちしりふとももー!(本音)
とにかく僕もアニメ化が待ち遠しいです。主にちちしr(ry


■夏海公司の「なれる!SE11巻」


今回は我らが主人公のデスマーチっぷりはなりを潜めて、買収した企業の管理業務を任される。
相変わらず社会人1年目の新人に任せるにはあまりに無茶ぶりな展開に胃が痛くなることしきりだが、そこはさすが電撃文庫、ラノベの主人公らしいチートっぷりを見せつけて見事に問題を解決してくれる。
いや、今回の問題解決は彼のチートぶりというよりも女衒ぶりが発揮されたと言うべきか。
つーか彼の女衒ぶりは日本人だけでは飽き足らず西欧女子まで毒牙にかけるのか。
おのれ工兵。1人よこせ(本音)


■師走トオルの「現代日本にやってきたセガの女神にありがちなこと」


セガファンのセガファンによるセガファンのためのラノベ!
これ以外に表現できようか。
てゆーかこれ以外の言葉が見つからない。
もちろん各キャラは可愛らしいしイラストも愛らしいしラノベの抑えるべき所はしっかり抑えた底堅い作りになってますが、まーゲームにあまり興味無い人にとっては面白さを感じることはできないかもしれませんね。
ニコ動のパロディとか普通に入ってくるし。
まぁ第○次ゲーム機大戦の動画を面白おかしく見られる人であれば、本作品も楽しく読めると思うのでおすすめ。
ちなみに個人的にはサターンが好みです。黒髪ロングは正義すぴー(鼻息)

あまりにも眩しい初恋の物語『東雲侑子は短編小説をあいしている』

最近、ブログのコメント欄がよく荒らされるので、そろそろ移行しようかなぁと思ってた矢先、
Evernoteのブログサービス「Postach.io」というものを知ったので、こちらへ移行したいなぁと思ってます。
まだ移行先は寂しいデザインだし、しばらくは並行更新したいと思いますが、どうぞよろしくです。




東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)
(2011/09/30)
森橋ビンゴ

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東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)
(2011/12/26)
森橋ビンゴ

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東雲侑子は全ての小説をあいしつづける (ファミ通文庫)東雲侑子は全ての小説をあいしつづける (ファミ通文庫)
(2012/05/30)
森橋ビンゴ

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小説とは、ありもしない体験を、あたかも自分が経験してきたかのような錯覚を覚えさせてくれる一種の空想具現装置だ。
いや、幻想や妄想を共有するという意味では、これは麻薬とでも呼んだ方が良いのかもしれない。

何をおおげさな、とあなたは言うだろうか?

だが私にとってこれは大げさでもなんでもない。
本書を読んでいる間、私は間違いなく主人公たちふたりの息づかいを感じていたし、彼らの思考や不安、幸福感を共有できていたと思える。
そして私は思いを馳せるのだ。かつて自分自身が抱いたことのある淡い思いや、そのときに感じたあまねく感情のひとつひとつを、まるで昨日のことのように思い起こし、やがて──己にはもうこのような感情を抱ける体力は残されていないのだと思い知らされる。

森橋ビンゴの『東雲侑子』三部作。
本書はまさしく麻薬であり、読者の思い出を強く強く刺激してくる入魂の一作である。


ここで描かれている物語は、何てことの無い、ただの高校生たちによるボーイ・ミーツ・ガールだ。
少年と少女が出会い、互いを気にかけ、恋に落ちる。
あらすじを言ってしまえばただそれだけだ。
世界は滅びないし、隣家に異世界の魔王や勇者が引っ越してきたりしないし、宇宙からやってきた美少女によるハーレムが築かれることだってない。
ごくごく普通の男女が(ヒロインだけちょっと特殊かも)偶然の出会いを通じ、互いに惹かれ合う。
ただそれだけ、本当にただそれだけの物語が、あまりにも美しく輝いて見える。

「図書委員で一緒になった、ちょっと変わった女の子」から、「少し気になる女の子」へ変わっていく描写はあまりにも鮮烈だし、それがやがて「気がつけばいつでも彼女のことを考えてる自分」に気がつかされるくだりはもう見事と言うほか無い。
その絶妙な心理描写や心境の変化が、技巧的でありながらも実に繊細なタッチで表現されている。

主人公を囲む人物も個性的だ。
小さいころから出来が良くて、コンプレックスを抱かされ続ける兄。
その兄の恋人で、同時に主人公の初恋の女性。
そして、ヒロインである東雲侑子。

主人公は、彼ら身近な人々の間で心を揺り動かし、そして、大いに悩むのだ。
その悩みはあまりに初々しく、微笑ましくて、だけどどこか羨ましい。
私のようなおっさんではもう体験できない、どこまでも青臭い、だけど透き通るような甘酸っぱい感情を、主人公は全身全霊で受け止め、悩み、足掻くのだ。

自分の胸奥に渦巻く感情は、本当に恋なのだろうか?
彼女は本当は自分のことなど何とも思ってないのでは?
むしろ出来の良い兄の方へ好意を向けているのではないか?
そしてなにより、自分はいったい、彼女とどうなりたいのだろうか──?

誠実でありたいと臨むからこそ空回りして、
彼女に嫌われたくないと思うからこそ行動にうつせなくなる。
そんな、誰もが通ってきた若かりし頃の甘く切ない思い出の道を、主人公はまさにいま、全力で駆け抜けていく。
少年は悩み、悶々として、鬱々としながら、でも最後には己の気持ちを真正面から見つめ直して、ついにヒロイン東雲侑子へ告げるのだ。

その後の展開は、もはや語るまでもないだろう。だってライトノベルだもの。辛く悲しい展開など待ってるはずもない。

そしてシリーズは嵐のような2巻と、決断の3巻へ続き、そこでフィナーレとなる。
主人公である三並英太と、ヒロインである東雲侑子。
出会ってから3年間、ずっとふたりでいっしょに成長してきた彼らが迎える結末は、あまりに悲しく、寂しくて、だけれど尊い。
そう感じさせてくれる、清々しいほど気持ちの良いフィナーレなのだ。

正直、私は3巻を読み終えるのが辛かった。
もっとふたりの幸福な時間を読んでいたいと、そう思っていた。
だが3巻のあとがきで「東雲侑子の物語はこれで完結である」とはっきり宣言されている以上、もうこれ以上の物語体験は望むべくもないのだろう。

だが、これだけははっきりと言える。
本書は間違いなく傑作だ。
初恋の甘さと苦みを味わってみたい人にも、
自身の初恋の思い出を切なく思い返したい人にも、
そしてもちろん、ヒロイン東雲侑子の可愛らしさにどっぷり浸かりたい人にもお勧めだ。

まだ2014年は始まったばかりだけど、今年中にこれを越えるほどの作品に出会える気がしない、それほどの衝撃を与えてくれた小説でした。
本当に、おすすめです。

奔騰する青春の血流に身を委ねる名短編集「OUT OF CONTROL」

OUT OF CONTROL (ハヤカワ文庫JA)OUT OF CONTROL (ハヤカワ文庫JA)
(2012/07/20)
冲方 丁

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冲方丁のOUT OF CONTROLを読んだ。面白かった。

SF作家でありライトノベル作家であり時代小説作家でもある、
非常に多彩な才能をもつ現代を代表する作家・冲方丁の初(?)となる短編集。

その内容はさすがの一言だ。
明言こそされてないものの、著者の少年期の体験を綴ったと思しき「スタンド・アウト」は、
思春期特有の尖った不安定感が存分に表現されていて、
少年が抱く世界すべてに対する不満や不安、それでいて煮え立つような熱情の猛りが
読んでるこちらにぎんぎんと伝わってくる。
たった30ページの物語の中で、主人公はある体験を通じ親友と劇的な成長をするが、
このときの描写はまさしく冲方丁独特の言い回しと表現力でもって
鮮烈な一場面として見事に描かれている。
この1編を読むためだけでも、冲方丁ファンはこの本を購入する価値があろうというものだ。

だが本当に素晴らしいのは、2編目の「まあこ」だ。
これは圧倒的である。
冲方氏としては珍しいホラー短編となる本編だが、
まさしく背筋を怖気が走るような恐怖を味わえること請け合いだ。
仕事も出世も恋もすべて順調な主人公が、
たったひとつの友人からの依頼からガラガラと奈落へ落ちていく様は本当に恐ろしい。
本編は「異形コレクション 妖女」に収録された短編だというが、
まさに「妖女」という主題に相応しい恐怖が体験できる。

ただ、一点だけ注意すべきことがある。

もしこれから本書を読もうとしている方の中で、
まだ冲方丁氏の「天地明察」を読まれてない方がいらっしゃるとしたら、
本書に収録されている「日本改暦事情」なる短編は絶対に読まない方が良い。
「日本改暦事情」はまさしく天地明察のダイジェスト版ともいえる短編で、
作者が天地明察を執筆する数年前に著した短編なのだ。
なのでこの短編を読んでしまうと天地明察の素晴らしい物語の味わいを
完璧には体験できなくなるので、ぜひご注意されたい。

その一点にさえ注意できれば、冲方丁入門書としておすすめできる秀作でした。

おすすめです。

未来を拓くため過去の後悔と向き合う「あずけて!時間銀行」

あずけて! 時間銀行  ご利用は計画的に (角川スニーカー文庫)あずけて! 時間銀行 ご利用は計画的に (角川スニーカー文庫)
(2009/10/01)
いとう のぶき

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あずけて! 時間銀行  ご返済はお早めに (角川スニーカー文庫)あずけて! 時間銀行 ご返済はお早めに (角川スニーカー文庫)
(2010/02/27)
いとう のぶき

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あずけて!時間銀行を読んだ。面白かった。

舞台は人間に残された残りの寿命を、あたかも金銭のように取り扱える銀行を舞台にしたSF小説。
時間の定期預金や、一時的に時間を借り入れられるキャッシングシステム、そしてそれをやりとりするデイスペンサーなどなど、本当に時間の概念をそのまま銀行業務に割り当てたような世界観。

だが物語は単純な時間管理業だけでは終わらない。

主人公の往事洋斗は、普段は面倒くさがりのグータラだめ人間だが、妹のこととなると奮起しすべてを投げ打つ覚悟を見せるシスコン兄貴。

そんな洋斗が、時間銀行の時間回収業務という危険な仕事に従事するようになった。
なぜ彼は時間回収業務を行うようになったのか。彼の目的はなんなのか……

と煽ってみたところで、洋斗のシスコンぶりは第一章でいかんなく描写されているため、まあ彼の目的や行動理由はなんとなく察せられる。
だがそこに至るまでの理由が泣かせるし、また最後のエピローグもエッジが利いてるから、物語を楽しむのに不都合はないだろう。

この物語は時間を取り戻す物語だ。
人は己が生きてきたなかで、様々な行動を起こし、そして後悔する。
それがほんの一時の失敗ですむならいいが、ときにはその人の人生そのものを腐らせてしまいかねないほどの毒をもつ。
主人公たちの仕事は、そんな後悔を重ねすぎて、心のしこりがずっと残り続けてしまった人たちの「毒」を取り除くことだ。

ある人は「あのとき、あと五分早く家を出ていれば」と後悔する。
ある人は長年連れ添った妻に対して「自分と結婚して本当に後悔してないのか」と疑い続ける。
またある人は、幼少期における父の姿がトラウマとなってしまっている。

そんな人々の「毒」を解消し、後悔することで無為に消費された時間を取り戻す主人公たち。

そこで彼らは知るのだ。過去を変えることはできないし、己が下した判断を覆すことなんてできない。
だが「あのときこうすればよかった」という後悔はずっとその人の記憶にこびりつき、人生を後悔のまま過ごさせてしまう毒薬そのものであるが、それでも、過去の記憶という夢の世界のなかだけでもその後悔を取り除いてあげるだけで、人々は救われるのだと。
だからこそ主人公たちは過去に捕らわれた人々のために奔走し続ける。

これは過去の後悔に捕らわれて現在を生きられなくなった人たちを、もう一度未来へと目を向けさせてあげるきっかけを作る人々を描いた、ヒューマンSFドラマなのだ。
未来を生きるために、現在と過去の因果を断ち切る。
そんなキーワードに熱いパトスを感じてしまった方はぜひ手にとってみてください。

人類最大のミステリーに挑む「銃・病原菌・鉄」



6月16日(日)に参加したおいでませ!5における合同誌「FLAVOR」がとらのあな様にて委託を開始しております。
どうぞよろしくお願いします〜。





文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
(2012/02/02)
ジャレド・ダイアモンド

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文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
(2012/02/02)
ジャレド・ダイアモンド

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ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」を読んだ。面白かった。

圧倒的である。
これは紛うことなき傑作だ。
1998年のピュリッツァー賞ノンフィクション部門を受賞し、
さらには2000年から2010年に発行された著作の中から50冊の本を選ぶ「ゼロ年代の50冊」という企画においては、見事ベスト1を受賞したというのもむべなるかな、という感慨を抱く。

著者がニューギニアに滞在中、現地の友人ヤリから素朴な疑問を投げかけられることから本書は始まる。

「世界は白人が様々な物資を持ち、富を持っているが、我々はそれを持っていない。このような格差はなぜ生じてしまったのだろうか?」

この疑問に対して著者は明確に即答できなかったという。
もちろん、直接的な要因ならばすぐに答えられただろう。
文字や印刷技術、機械工作技術の定着。
徹底的に論理を追求し、真理を探究する哲学体系の確立。
論理思考によりもたらされた、発明を受け入れる社会土壌。
強大な権力を持つ中央集権的政治体制の樹立。
何千キロもの旅を可能にする高度な航海技術。

だがいずれもヤリの疑問に完全に答えられるものではない。
なぜヨーロッパでは文字や機械工作が発明されたのか?
ぞれがニューギニアやオーストラリアで発明されなかったのはなぜか?
白人がオーストラリア大陸に来たとき、彼らはなぜ先住民を駆逐できたのか?
先住民が彼ら侵略者を撃退できなかったのはなぜか?
人数で圧倒的に勝っていた先住民がなぜ少数のポルトガル人侵略者を撃退できなかったのか?
逆に、先住民が航海技術を身につけ、ヨーロッパ大陸を支配するような歴史にならなかったのはなぜか?
支配するものとされるものとの間に存在する決定的な違いと、それを生んだ究極の要因とは何か?

それら数々のミステリーに、本書は膨大な事実を挙げながら、次々と、明瞭に答えを導き出していく。
そこに差別主義的思考の入る余地などなく、極めて論理的に議論は進められていく。
その様はまさに圧巻という他なく、その簡潔で隙のない、鮮やかな説明にはある種の快感すら抱いてしまうほどだ。

ある時は地球を宇宙から俯瞰してそれぞれの大陸の地理的特徴を論じ、またある時は時間を数千年、数万年レベルで飛び越えて、そうかと思えば人間の遺伝子や免疫構造をミクロの視点から分析する。
そうして徹底的に人類文化の形成の謎を追い、解きほぐし、そして解明へとつないでいくのだ。

知的生命体の反映描いた傑作といえばアーサー・クラークの幼年期の終わりや、小川一水の導きの星などがある。
本書は特に後者の小説を好む人にはぜひにお勧めしたい。
文化というものが発達していく究極の要因と、そこから直接的要因へと繋がる鎖の構造まで余すことなく解明してくれる。
これは間違いなく今年のベストノンフィクションだ。
オススメ。

アザゼルさんオンリー「おいでませ!5」参加します

お久しぶりです。缶です。

実は先日マユさんとほりおさんとでTwitterでの悪ノリが高じ、
6月16日(日)に東京ビッグサイトで開催されるアザゼルさんのオンリーイベントに
参加することと相成りました。

表紙_640x480

よんでますよ、アザゼルさん。オンリーイベント【おいでませ!悪魔探偵事務所5】
よんでますよ、アザゼルさん。オンリーイベント【おいでませ!悪魔探偵事務所5】

スペースNo.「F59」
サークル名「まゆほりお缶」
執筆者:マユさんほりおさん、缶
タイトル「FLAVOR」

こちらにわたくしめも二次創作SSを寄稿しております。
ちなみに本作は全員が全員思いっきり趣味丸出しで作成にあたったため、
度を過ぎたイチャラブが終始展開されているので読む前にマジ覚悟してくださいDANGER。
つーかこの本、カップ一杯のガムシロップにスプーン一杯のコーヒーを加えたよりもクソ甘いイチャラブに仕上がっちゃったため、読み終わったときには胃もたれ起こすこと請け合いですマジで。

それでも俺は受けきってみせる!というイチャラブ愛好家(レンジャー)を自称する
紳士淑女の皮を被った猛者と勇者と若干手遅れなオタクの皆々様におかれましては、
ぜひぜひ当該サークルへお立ち寄りくださいませ。

その力で、手を血に染めよ「魔法少女育成計画」

魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)
(2012/06/08)
遠藤 浅蜊

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魔法少女育成計画を読んだ。面白かった。

圧倒的である。
これ意外に言葉がない。それほどまでにこの作品のもつエンターテインメント性は抜群だった。

何気なく遊んでいたオンラインゲーム「魔法少女育成計画」。
このゲームを遊ぶもののなかから1万人に1人の割合で本物の魔法少女になれるという
いかにもな都市伝説がまことしやかに囁かれ、そしてそれが現実の物であることを知った16名のプレイヤー。
彼らは老若男女問わずいずれも見目麗しい「魔法少女」へと変身し、
常人のそれを遙かに凌駕した"力"を世のため人のために使っていく。

そうして現実の世界でも「魔法少女」としての力を使って世の中を押下していたプレイヤーに、
ある日、管理者から絶望的な宣告が為される。

「多くなりすぎた魔法少女を減らすため競争をさせる」と。
ではその競争の敗北者を迎える結末とは何か?
すなわち、死である。

ただ魔法少女になれたことを喜び、人のために使い続けてきた少女たちに突如降りかかってきた、
圧倒的なまでの過酷な試練。
その試練のさなかで一人、また一人と魔法少女は斃れ、
魔法という恐るべき能力を持った魔法少女──いや、魔人と呼ぶべきか──による血で血を洗う
無慈悲で凄惨極まりない生存競争が始まるのだ。

その競争と、競争が生み出した苛烈な結末に、僕たち読者はただひたすら流されるだけとなる。
欲望と渇望、信頼と友情、愛情と結束、羨望と嫌悪、信頼と裏切り、嘆きと絶望、そして生命と死滅。
あらゆる感情をひとしなみに吹き飛ばしながら魔法少女たちは戦う。
ある者は拳を振るい、ある者は刃を放ち、そしてある者は凶弾に斃れる。
そして迎える結末には、言いようのない喪失感だけが読者の胸に去来することだろう。

電車で乗り過ごしかけること2回、睡眠時間を削ること二晩、あっという間に読み終えてしまった。
これは間違いなく中毒になる小説だ。
もしお手に取った方は、ぜひ読み始める時間にだけはご注意を。
一度ページをめくり始めたら最後、その手を止めるタイミングは一切見つからなくなるので。

冬コミ新刊情報

どもども。お久しぶりです。缶でございます。

さてさて、2012年の冬コミにサークル参加できることになりましたので、
新刊「あやかしのゆめ 参」を頒布させていただきますです。

あやかしのゆめ 参 表紙

主人公・武田龍吾の凛々しい立ち姿を描いて下さったのはゆかこさんでございます。
今回も本当に素晴らしいイラストをありがとうございます!

なお当日のサークル配置は以下の通りです。

12月29日(土) 東R-17b「かかんかん」

他にも、当日は既刊も何冊か持っていきます。

初音ミク同人誌(完結)
 「君の心は、そこにある 総集編」

オリジナル(継続中)
 「あやかしのゆめ」
 「あやかしのゆめ 弐」

ぜひぜひ、当日は当サークルへお立ち寄りを〜!
プロフィール

缶

Author:缶
SS書いたり読書感想文書いたり仕事のあれこれを勝手気ままにダダ漏れさせる予定のようなそうでないような。

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